金を飲む

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太陽を象った大きなイヤリング、真珠大の粒を連ねたつややかなネックレス、左右十本の指にはめられた十の指輪。細かな宝石の装飾が星空のごとく煌めくブレスレット、自身の顔が彫刻された胸元のカメオ、先がくるりと尖った流行りのデザインのブーツ。それらはすべて、純金製だ。 無論、それで終わりではない。ふくよかな全身を包む洋服の豪奢な飾りボタンやベルトの金具まで純金なのはもちろんのこと、恰幅の良い背中にゆったりと羽織ったガウンは、シルク素材の裏表を隙間なく金糸で縫い尽くすことにより黄金の布を実現させている、非常に手間隙のかかった逸品だ。そしてとりわけお気に入りなのが、うやうやしく頭頂部に載せた黄金のクラウン。国一の彫金師に三年もの月日を与え、もはや神工鬼斧と呼ばれるまでに精緻な神々の彫刻を施させた、世界に二つとない至宝と呼べる代物なのだった。 全身が金、金、金ずくめ。窓から差し込むわずかな日光でも強烈に光り輝く、この世の栄華を極めに極めた自身の姿をこれまた純金で縁取られた大鏡で確認し、王は今日も満足げに鼻を鳴らした。 この国では、悠久の時を経ても褪せぬ輝きを持つ金は不老不死の象徴であり、純然たる金を使用した品々を身近に置くことでその限りないパワーを分け与えられるとして、古くから王族に好まれ、愛用されてきた。 特に今代の王は、金に対する執着心は異常と呼べるものだった。王は下々から税を絞りあげ、贅の限りを尽くした黄金の宮殿を建てた。調度品もすべて一流の細工が施された純金製を選び、使い捨ての日用品にすら惜しげもなく金を使い、ひとたびショッピングともなれば、金の刺繍がしつらえられた洋服や、巧みな金細工の装身具など気に入ったものを次から次へと購入していく。下々の者たちは非難の意を込めて、彼を『金色の王(ゴールデン・キング)』と呼んだ。 夜になり、王の晩餐が始まった。食器類は無論すべて純金製だ。黄金のシャンデリアが優美に照らす黄金のダイニングルームで、黄金のテーブルクロスが敷かれた黄金の長テーブルに豪勢なフルコースの品が次々と運ばれてくる。 王は、食事内容についても『金』という単語に拘った。オードブルは、金糸瓜と金時草のサラダ。透き通った金色のオニオンスープの後には、金目鯛のポワレと黄金鶏のソテー。レモンピールのソルベで口直しが入り、続いて黄金色のソースがけローストビーフを……と、このような調子で残りの料理も金に関係のあるものばかりだ。 しかし、王はふと疑問を抱き、専属のシェフに尋ねた。 「この食事に金は入っているのかね」 「いいえ、入っておりません」 なんだと、それは大問題だ。いくら金色だろうと金の名前を冠していようと、野菜は野菜、肉は肉でしかなく、金とは全くもって違うものだ。金に宿る不老不死の力を得るためには、すなわち金そのものを食す必要があるとは思わんかね。王はそうシェフに説き、翌日から金箔と金粉がふんだんに施された、王以外は食欲を無くしそうなきんきらきんの料理が提供されるようになった。
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