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何か犯罪を犯さなくても、人は殺せる。事実、一夏の姉は両親に殺されたようなものだ。
一夏の姉、真琴は小学生の頃、同級生にいじめられていた。小さな子は好きな子をいじめたくなると言うが、そう言った類のいじめだったように一夏は思う。一夏の姉は色白で目が大きくクリクリとした可愛い子であった。勉強もスポーツもよく出来た。同級生の中でも目立つ存在だったに違いない。
いじめは同じクラスの男子からだったようだ。一度、学校帰りに突き飛ばされて、側溝に落ち、靴を泥まみれにして帰ってきた事がある。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
一夏は心配して姉に聞いた。
「亨君たちに追いかけられて、逃げていたら、落ちちゃった」
姉はそう言うと涙を浮かばせ、玄関の前で靴を脱いだ。
「ドロドロじゃない」
「うん。今から洗って明日までに渇くかな?」
「お母さんに言って洗って貰えば?」
「駄目だよ。お母さんにバレたら揶揄われて笑われるに決まっているもの」
確かに姉の言う通りだ。母はどちらかと言うといじめる側の人間である。少し前に姉が教科書を隠されて泣いて帰ってきたときも面白そうに揶揄っていた。でも子供としてはそんな事認めたくない。出来る事なら庇ってほしい。
「私がお母さんに言ってあげるよ。大丈夫。明日までに洗って貰うように頼んでみるから。ねっ」
「いいよ。私、自分で洗う」
姉はドロドロになった靴を手に持ち、寂しそうにお風呂場に入っていった。そして夕飯の時間までドライヤーで一生懸命乾かしていたのを覚えている。
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