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初めてそれを見たのは、入院していた祖父の見舞いに行った時だった。
小人がいる。子供の私はただそう思ったし、実際小人にしか見えなかった。
十センチくらいの、人間の形をした何か。輪郭は人型だけれど目も鼻も口もない。でも手や足は器用に動いて、祖父の肩や背中、頭にかけてを走り回っていた。
病気の祖父を慰めようとしている妖精だと、最初は本気でそう思ったんだ。でもそうじゃなかった。むしろそいつは正反対の存在だった。
俺以外には見えてないそいつが、祖父の体の上をあちこち移動し、色んな個所にちょっかいをかける。そのたび祖父の仕草や言葉がおかしくなった。
肩や腕にそいつがしばらくとどまれば、辛そうな顔でその付近を撫でさする。そいつが口元をつつくとうまく言葉場が出なくなり、喉をつつけば咳き込んだ。
そいつのせいで祖父があれこれ苦しそうになるので、見かねて両親に訴えたけれど、どちらも『何を言っているのか』という顔をするばかりで、この時に、俺はそいつが俺にしか見えないことを悟ったのだ。
祖父の見舞いに行ったのはこれ一度きりで、それから半年後に祖父が亡くなるまで、俺は祖父に会うことはなかった。
元々入院するレベルの病気だったから、病状が悪化して死に至ったことを誰も疑わなかった。俺もそこは疑わなかったけれど、生前、祖父が色々と苦しそうだったのは、病気のせいではなくあの小人が原因なのではと思っていた。
アイツが居ついたり触ったりした体の場所は、みんな痛くなったり不自由になったりするに違いない。
でも、あれは何なんだ?
小人の形をした悪魔的なものか? それとも病気の苦痛が小人の形になってるのか?
疑問は多々あったけれど、祖父の病室以外では見かけることがなかったので、正体を確かめることはできなかった。
でも今、俺はあの小人と再び対面している。
家で具合が悪くなり、倒れた俺は、救急車で病院に運び込まれた。
そのまま緊急入院することになったと、意識が戻った時親に言われたが、戸惑う俺の傍らにはあの時見た小人がいた。
検査をしてみないと原因は判らないらしいが、俺は確実に何かの病気に罹っているのだろう。小人の存在がそう俺に確信させる。
俺がベッドにただ横たわっている時は、小人はまったく動かない。でも、医師や看護師と対話する時、あるいは、見舞いに来た親と話す時は活発に動き回り、全身のあちこちを痛ませ、言葉を詰まらせたり咳き込ませたりしてくる。
祖父の病室で見たのと同じ行動をする小人。こいつがいるということは、俺は祖父と同じように病気でこのまま死ぬのだろうか。
いや、絶対にコイツの行動をやめさせて、病気を治し、退院してやる。
ただ病気とだけ聞かされていたら、打つ手もなく弱るだけだったかもしれない。でも俺には悪さを働く小人が見える。
コイツを追い払えば俺の病気はきっと治る。そう信じて、必ずコイツを退散させてやるからな。
小人…完
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