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魔王子さまは劣等生
自分の出自が特殊だということはよく認識してる。
父は魔王、母は伝説の大魔導士。読んで字の如くの怪物両親だ。
だからその息子である僕が怪物なのは、至極当然の流れなのである。
僕は両親の長所をすべて受け継いでこの世に生を受けた。莫大な魔力も、無限の知力も、底知れぬ体力も、剣術の才も、何もかも。いや、ひょっとすると両親以上かもしれない。
――――僕は生まれた瞬間から言語を操ることが出来た。二歳でこの世の魔法をすべて極め、三歳では剣術で父を負かした。七歳の時にはオネショで村を二つ三つ沈めたこともある。(その時は父と母の奮闘で何とか鎮められた。)
だが、これほどの力を持っているにも拘らず、実家のご近所さんも、一年前から通っている王立学院の皆も、誰もかれもが僕を『一般人』だと思ってる。
いやそれどころか、僕になんて見向きすらしない人も多い。
彼らは知らないのだ。僕がどれほどの能力を有しているのかを。
――――不幸だとは思わないさ。むしろ、僕は自ら望んでそういう状況を作り出している。
端的に言えば、僕は自分の正体を隠しているのだ。だから人前では決して能力を振るわないし、目立つようなこともタブーなのである。
――――どうして正体を隠すのかって?そうだな、その疑問に答えるためには、少し両親の話をする必要があるだろう。
僕の両親は、二十年ほど前、魔界と人間界との戦争のさなかに結婚した。しかもただの結婚じゃない、二人は駆け落ちしたのだ。
彼らの駆け落ちは当時、世間から大批判を食らった。
駆け落ちすること自体世間体はあまり良くないが、彼らの場合はそこに身分が乗っかって、もうどうしようもないくらいに炎上したのだ。
結果、彼らはこの上ない売国奴として歴史に名を刻んでしまった。
だから、彼らが暮らしていくためには、どうしても自らの正体を隠す必要があった。魔法で顔を変え、声を変え、能力を偽り、人里離れた田舎でひっそりと隠居する必要が。
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