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またいつもの話か、という感じで、美佳は聞いていた。
「その人の家には陽の当たるベランダがあって、庭にはキンモクセイ。ドベちゃんは、寝っ転がって、小学生ぐらいの男の子に背中を撫でられて、幸福で満ち足りていたのよ。その時男の子のニオイが、幸太からしてくるのよ!」
ドベ子は目をキラキラさせて熱く語った。だが、美佳は冷たく言い放った。
「小学校からの馴染みの私だから言うけど、それ、誰か信じると思う? あんたの鼻が異常なぐらい鋭いのは知ってるけど、犬の記憶と能力を引き継ぐとかさ。オカルトじゃん?」
「えー、でもホントのことだもん。じゃあさ、あのエロい先生に勝ったら、幸太も信じてくれるかな?」
「そんなこと、分かんないわよ。でも、あんたが本当に犬並みの嗅覚を持っているって証明できれば、少しは真田君も信用するかもね」
ドベ子の顔が、パアァと明るくなった。
「マジで!? じゃあ、私、勝つ!」
拳を握り締めてガッツポーズをし、決意を新たにした。
「でも、あの先生、凄く自信があったけど、どんなお題を出してくるのかな?」
「さぁ。多分、香水のニオイじゃない? この香水は、どんな成分で出来てますかー、とか?」
ニヤリと笑って美佳が言うと、ドベ子は顔をしかめた。
「ゲッ、それ私が一番苦手なヤツ!」
ドベ子は香料など化学的な化合物のニオイを嗅ぐと、気分が悪くなるという。
「てかさ、何であんた香水が嫌いなの?」
「よく分かんないけど、なんか嫌なことを思い出すのよ」
美佳は怪訝な顔をした。
「何があったのよ?」
「多分だけどさ。ドベちゃんの嫌いな人と同じニオイがするからだと思う」
「ふうん。でもさ、そのぐらいのハンデあげたら? 犬の嗅覚は人間の一千万倍って言われてるじゃん。それより、こっちがどんな問題出すか、考えなきゃ。負けたら、あんたはホラ吹きの上に、ただのアホなニオイフェチってことになるんだから」
「そ、そんなあだ名、ひどい……!」
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