第三章 「ベースノート」を嗅ぎ分けろ!

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「は、はひ。おわりまひた」  ハァハァとドベ子の呼吸は異常に荒くなっていた。一方の亜里沙は、自分の作った香水に酔いしれるように満足げな表情を浮かべている。 「ワォ。最初に鼻腔をくすぐる初夏を思わせるこの新緑のような若々しい香り。ちょっと青臭いともいえるけど、青嵐の一年生を迎えるのにふさわしいでしょ?」  自画自賛して自己満足に浸りきった亜里沙は、試験紙に浸した香水を、クラスの男女に回した。教室内が、若葉のようなニオイに包まれた。 (へぇ、エロ先生には似合わない爽やかなニオイだ) (森とか歩いてると、こういうニオイがするかも)  亜里沙は満足げな表情を浮かべていた。 「ま、トップノートは簡単ね。種明かしをすると、成分としては、『ガルバナム』というのよ。旧約聖書に出てくるモーセも使ったことがあると言われているわ。でも、問題はこれじゃないのよ」  ガルバナムとは、シャネルやプラダにも使われている精油で、土や樹木を思わせるような自然な香りがするのが特徴だ。森の地面に寝るような気分に浸れる「森林浴」の効果があるとされている。 「当ててほしいのは、一番最後に、ずっしりと香ってくるベースノート。これを、この十本の小瓶の中から、ベースノートの成分を当ててね」 実に爽やかなニオイなのだが、ドベ子は目を回してフラフラしている。
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