第三章 「ベースノート」を嗅ぎ分けろ!

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亜里沙は、面目丸つぶれだが、この程度で凹む女ではなかった。 「ホホホ。さすがは私がライバルと認めただけはあるわ。正解よ。このベースノートは、古くから使われている『フランキンセンス』と言って、乳香ともいうの。中近東やアフリカなどが原産で、カンラン科ボスウェリアボスウェリア属の樹木から抽出されるわ。主な成分は、モノテルペン炭化水素類。ウッディでスパイシーな香りが特徴ね。今回私は、トップとベースを、森林系の爽やかな香りでまとめてみたのよ」  ドヤ顔で蘊蓄を語る亜里沙の話に、誰も耳を傾けようとはしなかった。 「先生! 実はたいしたことないじゃん!」 「完敗じゃん! カッコワルー!」  ガンガンヤジが飛んだが、亜里沙のメンタルの強さも尋常ではなかった。 「えー、静かにしましょうね。生徒の長所を引き出し、自信を持たせるのが教師の役目です。見て、勾坂さんのこの笑顔……」  と言い掛けたが、ドベ子は目を回して立ったまま気絶していた。美佳が、慌てて駆け寄り、 「ドベ子、しっかりしてよ! 次は手羽先対決でしょっ!」  耳を引っ張って、声を叩き込むと、パッと目を覚ました。 「わぁあ、どこどこ、手羽先?」  キョロキョロと見回した。 「てか、あなた勝ったのよ。次の勝負があるでしょ!」 「そ、そうだった。持ってこなきゃ」  ドベ子は教室の隅に置いてった自分のカバンから、弁当箱を取り出した。
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