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クンクン、クンクン
「このニオイ……。懐かしいニオイだわ」
クラス全員が、ドベ子の鼻に注目していた。いつもは教科書以外に関心のない幸太が、その眼球に全身全霊を込めて、その様子を凝視していた。
「本当に、懐かしいニオイだって分かるのか」
「うん。だってこれは、ドベちゃんの飼い主と、ドベちゃん自身のニオイだもん」
幸太の眼の色が変わった。信じられない、という表情をしている。
「なんだって……? それじゃ、この手袋の持ち主が、分かるのか?」
「分かるわ。ドベちゃんの飼い主ってことは、幸太のパパね。幸太パパの手袋のニオイ。凄く凄く、懐かしいニオイだわ」
人間は、本当に信じられないことを目の前にすると、自然に震えが起こる。幸太は、手を小刻みに震わせていた。
「お前、本当に『エリザ』の生まれ変わりなのか?」
「エリザ? ドベちゃんの前の名前、エリザって言うんだ。可愛い名前だね!」
ドベ子はニッコリとほほ笑んだ。普段は無口な幸太が、饒舌になって来た。
「この手袋から、どんなニオイがする?」
「うーん、多分これは随分昔の手袋だから、ニオイが薄くなってるけど、幸太の臭紋に近いオジサンのニオイがするわ。それに、キンモクセイのニオイが混じってて、幸太からするニオイとよく似てるわ。このキンモクセイは、幸太の家のお庭にあるキンモクセイでしょ?」
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