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第1話 一目惚れ
その日の夜。むしむしと暑い自室のベッドで、アホみたいな顔して天井を見上げている。
放課後の図書室のことを思い出していた。
『あの、本を返しに来ました』
申し訳なさそうな顔をして、本を返しに来た女子生徒は二つ上の三年生で、礼儀正しい清楚な女性だった。
いつも遅れて返しに来る生徒は、謝りもせずに返してくる生徒が多かったから、たぶん珍しく感じたのだろうな。しかし、それと同時にあの三年生に恋をしてしまった。
『あの、もしかして怒っていますか?』
『い、いえ! あ、返しですね』
僕はその時慌ててしまい、本を受け取ろうとしたら案の定落としてしまった。受付台の上に。
『すいません!』
『いえ、大丈夫ですよ。あ、その小説凄く良い話しでした。ついつい読みふけっちゃって返すのが遅れてしまって。すいません』
律儀に頭を下げられて、僕は困惑して頭を上げさせるよう伝える。
『そんなことしないでください。気にしてませんよ? あ、本好きなんですか?』
『ええ。好きよ。本を読んでいると心が落ち着くの、それに物語を読むのが昔から好きでつい時間を忘れちゃう』
それからは、少しだけ会話をして終わった。
「和樹ー! ご飯の時間よー!」
あの三年生の先輩との会話を思い出している最中に、母親からのご飯コールがかかった。
僕は驚いてベッドから転げ落ちた。
「あんた、今の音なに?!」
母親の心配を装う声が廊下から聞こえ、咄嗟に「大丈夫! 何でもない!」と伝えた。
母親は何かぶつぶつ言っていたが聞こえないフリをした。
ズレた眼鏡を整えて、立ち上がり、カーテンを閉めてリビングへと向かった。
ーーまた、あの先輩に会いたいな
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