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夜ご飯をすませ、一息ついてからお風呂に入り、パジャマに着替えて、歯磨きをしてから部屋に戻った。机の上にはカバンがドンッと置いてある。僕はカバンの前に立ち、右の壁に貼ってある時間を見ながら、明日の授業道具を出し入れした。
教科書を入れている時、一冊の本が出てきた。そういえば、帰る間際に借りた本だった。しかも、あの三年生の先輩と同じ物だ。
別にあの三年生の先輩と同じ本が見たいとか……そういうやつじゃ。
「って、誰に向かって否定してんだ?」
自分にツッコミを入れる。
それよりも、早く教科書を入れて宿題をしないと。
最後の教科書を入れ終え、ファイルから数学と国語のプリントを取り出した。
軽く窓を開けて、少しむしっていた部屋に夜風が吹き込んでくる。
虫の鳴き声も地味に聞こえてきた。こういうのを風流と言うのかな? なんて思いながら、宿題をこなしていった。
****
翌朝、いつも通りに起きて、いつも通りにご飯を食べて、学校へ行く。だけと、少しだけいつもとは違う。
あの三年生の先輩にまた会えたら、と思うと不思議と足取りが軽やかになる。
空は曇りだが、僕の心は晴々としていた。
軽いスキップをしながら学校へ向かう途中、同じクラスの赤木と会った。
「あ、和樹。おはよ、なんだか機嫌良いな何かあったのか?」
赤木とは、高校に入って初めて出来た友達だ。クラスにまだあまり馴染めていない僕に、初めて声をかけてくれたのは赤木だった。赤木が話しかけて来なかったら、今でも一人だったかもしれない。
「え? 別に何でもないよ」
「そうか? なんかスキップしているように見えたけど?」
見られてた?!
僕はブンブンと激しく首を振り拒否をする。それを見た赤木は、笑い声を上げた。
「あはははははっ!! スッゲー拒否るな! わかった、わかった、追求はしないから!」
「ほんと?」
「ああ。それより、早く学校行こうぜ。遅刻しちゃう」
そう言われて、赤木と一緒に学校へ行った。
学校に着き、玄関で上履きに履き替えて、一階にある自分の教室に向かう途中、三年生の下駄箱の方からあの先輩が現れた。
「あ、あ、あ」
「ん? どした?」
赤木の声が耳に入ってこない。
「……」
先輩は僕に気付かずそのまま上の階に消えていった。
しばらくの間直立不動になり、赤木の激しい揺さぶりに意識を取り戻した。
「おい! 大丈夫かよ!」
「ウン、ダイジョウブダヨ」
「うん、大丈夫じゃないな。保健室に行って頭冷やしてくるか」
「いや! 大丈夫! 早く教室に行こう!」
赤木の前を通り過ぎ、早歩きで教室にへと向かって行った。
取り残された赤木は小さく零した。
「あいつ、橋本先輩に恋したのかな……?」
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