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教室に入り、自分の席がある廊下側の一番後ろに座った。なぜか疲れている。あと、赤木を置いてきてしまった。
教室には、そこそこ生徒が集まって来ていた。まだ、予鈴がなるまで時間はあるから、みんな各々の好きな時間を過ごしている。
ガラッと入り口から赤木がやって来た。
「おはよう、赤木ー」
「ああ。はよ」
赤木は、男子生徒に軽く挨拶をして、自分の席がある僕の前の席に腰を下ろした。
「もー、置いてくなよなー」
ふくれ顔を僕に向けてくる。だけど、冗談の顔なのは見て取れた。
「ごめんね、ついね」
「『ついね』じゃねぇよ!」
バシバシと肩を叩いてくる。意外と痛い。
「ごめんね、痛いからやめて」
「……俺、お前の冷静な言い方、時々怖いんだけど」
「そう? 普通だと思うけど」
タイミングが良いのか分からないけど、予鈴が鳴り出した。みんな席についていく、そして誰が言ったわけでもなく、静かに朝読書を開始した。
時刻は午前八時二十分を指していた。しばらくすると、担任の倉木先生が教室に来た。朝読書中の生徒たちの邪魔にならないように、窓側にある教員用の椅子に座り、自分も本を読み出した。
夏の生ぬるい風が教室に吹き込んでくる。一応、教室は冷房が効いていてそれなりに快適な空間だった。
僕は、小説を読んでいく。あの先輩と同じ小説を読んでいく。
『暗く、寒い小屋の中に一人の少女が閉じ込められていた。彼女の家は特殊な家系だった。先祖代々から男の赤子を産むという、厳しい掟がこの家にあった。だけど、ある年パタリと男の赤子が産まれなく、代わりに女の赤子が産まれるという事態が起きてしまった。家の者たちは、産んだ女に「この子を殺して、男を産め」と残酷な言葉を次々に言い放っていった。けれど、女は頑固拒否を貫き、女の赤子を育てるようになった。
しかし、この世は残酷な程で彼女が十を迎えると同時に、母親は病気でこの世を去ってしまったーー』
「朝読書の時間、終了ー」
倉木先生の終了の合図で、現実に戻された。
みんな本を机の中にしまったりカバンの中しまう。僕も少し名残惜しいが机の中にしまった。日直が号令をかけ、みんな椅子から立ち上がり、「おはようございます」と挨拶を言う。日直の着席の合図でまた椅子に座る。
「みんな、おはよう。先生からの連絡は、暑い日が続くので小まめに水分補給をして下さいーー」
倉木先生の連絡を聞き流しながら、机の下で地味に本の続きを読んだ。こういう時、一番後ろで良かったと思う。他にも先生の話しを聞き流して、別な事をしている生徒が何人かいた。
倉木先生の話しが終わり、最後に委員会があるから忘れずにとだけ伝えられて、朝の会が終わった。同時に一時間目のチャイムが校内に鳴り響いた。
倉木先生と交代で社会科の林先生が入って来た。
今日も長い学校生活が幕を開ける。
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