第1話 一目惚れ

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午後の授業の内容が頭に入ってこなかった。 先生の教えている声が濁って聞こえる。まるで、水中の中にいるような感じだ。 「〜〜で、〜〜だから」 ノートに黒板の内容を書き写していたが、シャーペンがノートの上に落ちた。それから、僕はうつ伏せになり、授業が終わる直前まで夢に逃げ込んだ。 先生の「今日はここまで」という声で目が覚め、周りはガサガサとノートや教科書をしまっていく。ボンヤリとその光景を見ていたら、先生と目が合ってしまった。僕は咄嗟に目線を逸らして、ノートと教科書をカバンの中にしまった。 ちらっと先生の方を見ると、先生は気のせいかと思ったのか、先生用の日誌に目を落としていた。少し焦ったが、こっちに来なくてよかった……。 授業が終わるチャイムが鳴り、日直の号令がかかる。みんなガタガタと席から立ち上がり、日直の後に続いて挨拶を交わした。 今日は五時間目で終わりだったから、みんなどこか羽を伸ばしている。 担任の倉木先生が教室に入って来た。そのまま帰りの会が始まり、先生からの連絡事項もなく、「さよなら」を言ってみんな廊下に出て行った。僕もカバンを待って、今日も図書室の受付に向かう。 廊下は相変わらず生徒で賑わっている。部活に向かう生徒や帰る生徒。図書室に近づくに連れて、生徒の足取りも少なくなっていく。図書室に着き、扉を開ける。 窓が閉め切っていて、中は蒸し暑い。すぐに窓を開けて風を通す。夏の風が図書室の中に吹き込み、蒸し暑かった空間が一気に爽やかな空気に変わった。 窓からグラウンドが見え、もう部活の生徒たちでガヤガヤ賑わっている。 僕は受付の中に入って、貸し出しカードのチェックをしていく、今回は珍しく期日中に返していない生徒はいなかった。 それを終えたら、本棚の整理をする。本棚の整理をしている時、ガラッと生徒が入って来た。椅子の引く音が聞こえ、どうやら此処で勉強をするみたいだ、と勝手に勘ぐる。奥の本棚から整理をしていたから、ここからだとテーブルが見えなかった。 本棚の整理を終えて、受付に戻る。
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