第1話 一目惚れ

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***** 午後六時を迎える頃、放送が流れ出した。 『帰りの時刻となりました。部活動などを行なっている生徒は帰りの準備をし、速やかに下校して下さい』 その放送が流れると、図書室にいた何人かの生徒は読んでいた本を本棚に戻したり、勉強道具をしまい、図書室から出て行く。僕も読みかけの本をカバンにしまい、受付から出て窓を閉める。 夕焼けのオレンジ色が図書室の中に差し込んだ。 「きれい……」 夕焼け色に染まった図書室の中は、どこか幻想的に見えて、何よりも美しいと感じてしまう。 僕は、最後の窓を閉めて図書室を出た。 廊下は静かだった。他の生徒の声はなく、日中の賑わいは見る影もない。なんだか、僕だけ別の空間に迷い込んだような、不思議な感じに思えた。それに、どこか特別感に溢れていた。 僕は夕焼け色に染まっている、廊下を楽しげに歩く。階段を降りて、玄関へと向かう。 その頃には、夕焼けの陽も弱まっていき、綺麗な輝きを失っていた。 外は少しずつ夜へと向かっていた。 正門を出ると、空はすっかり陽は落ちて、薄暗くなっていた。道路の左右にある何台かの街灯に明かりが灯っている。 生徒は誰もいない。 「こんばんは」 「!」 背後から聞き慣れた声がして、反射的に後ろを振り向いた。 先輩がいた。変わらない笑顔を僕に向けていた。 ブゥウンと、車が一台素通りして行った。 「まだ、帰ってなかったの?」 先輩から口を開いた。その質問に僕は頷いた。 「そっか。じゃあ、途中まで一緒に帰ろ」 まさかのお誘いに思考が停止する。今、一緒に帰ろうって、言ったのか? もしそうなら、ラッキーすぎる! 僕の心の中は、うるさいくらいに舞い上がっていた。 「どう? 駄目?」 「いえ! ぜひ!! お供させて下さい!」 「ふふっ。面白い子ね」 あ、笑われた。しかも、お供ってどこの時代劇のセリフだよ。 やばい、恥ずかしい。 「さ、行きましょう」 「あ、待ってください!」 先に行った先輩のあとを、僕はカルガモの雛のように追いかけた。 一緒に帰る中、途中で同じクラスメイトに会わないか、少しヒヤヒヤしていたけど、意外と出くわさないものだ。
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