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午後六時を迎える頃、放送が流れ出した。
『帰りの時刻となりました。部活動などを行なっている生徒は帰りの準備をし、速やかに下校して下さい』
その放送が流れると、図書室にいた何人かの生徒は読んでいた本を本棚に戻したり、勉強道具をしまい、図書室から出て行く。僕も読みかけの本をカバンにしまい、受付から出て窓を閉める。
夕焼けのオレンジ色が図書室の中に差し込んだ。
「きれい……」
夕焼け色に染まった図書室の中は、どこか幻想的に見えて、何よりも美しいと感じてしまう。
僕は、最後の窓を閉めて図書室を出た。
廊下は静かだった。他の生徒の声はなく、日中の賑わいは見る影もない。なんだか、僕だけ別の空間に迷い込んだような、不思議な感じに思えた。それに、どこか特別感に溢れていた。
僕は夕焼け色に染まっている、廊下を楽しげに歩く。階段を降りて、玄関へと向かう。
その頃には、夕焼けの陽も弱まっていき、綺麗な輝きを失っていた。
外は少しずつ夜へと向かっていた。
正門を出ると、空はすっかり陽は落ちて、薄暗くなっていた。道路の左右にある何台かの街灯に明かりが灯っている。
生徒は誰もいない。
「こんばんは」
「!」
背後から聞き慣れた声がして、反射的に後ろを振り向いた。
先輩がいた。変わらない笑顔を僕に向けていた。
ブゥウンと、車が一台素通りして行った。
「まだ、帰ってなかったの?」
先輩から口を開いた。その質問に僕は頷いた。
「そっか。じゃあ、途中まで一緒に帰ろ」
まさかのお誘いに思考が停止する。今、一緒に帰ろうって、言ったのか?
もしそうなら、ラッキーすぎる!
僕の心の中は、うるさいくらいに舞い上がっていた。
「どう? 駄目?」
「いえ! ぜひ!! お供させて下さい!」
「ふふっ。面白い子ね」
あ、笑われた。しかも、お供ってどこの時代劇のセリフだよ。
やばい、恥ずかしい。
「さ、行きましょう」
「あ、待ってください!」
先に行った先輩のあとを、僕はカルガモの雛のように追いかけた。
一緒に帰る中、途中で同じクラスメイトに会わないか、少しヒヤヒヤしていたけど、意外と出くわさないものだ。
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