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「千秋、なんか手についてない?」
僕に手をつかまれたことで、千秋もそのことに気づいたようだった。
顔をしかめて、千秋は自分の手を眺めた。
そして…。
「うっ!」
息を飲むような千秋の声。
次には、千秋にしてはめずらしい、うろたえたような声を上げた。
「な、なぎっ! オレ、どっか切ったのか!? 血が出ているのかっ、こんなに!?」
その千秋の声にびっくりして、僕は千秋の手をつかんだ自分の手と、そして千秋自身を注意深く見る。
しかし、自分の手を一目見ただけで、それがなんなのかはすぐに分かった
「なに騒いでいるの、ばっかみたい、ただ棚から落ちてきた絵の具が、手にひっかかっただけじゃないの」
僕の背後から、ぴょこっと顔をのぞかせたあおいが、一目見てすぐさまそう言った。
あおいの言うとおり、僕の手についているのは、鮮やかな濃い緑色の絵の具だった。
こんなド緑色の血なんか、千秋の正体がエイリアンでもないかぎり、ありえない。
いつもは千秋からからかわれることの多いあおいだが、ここぞとばかりに、千秋をこき下ろしている。
さっきまでの恐怖心はどこかへ飛んでいったのか、あおいは鼻高々といった笑顔を浮かべていた。
「本当か、なぎ、これはオレの血じゃないのか?」
しかし千秋は動揺しているのか、まだそんなことを言っている。
この独特なぬるりとした絵の具の肌触りが、千秋を混乱させているのだろうか?
それとも…あおいにだけ見えるという壁の血しぶきの跡みたいに、何か良くないものが、今度は千秋をだまそうとしているのか…?
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