2 血の涙を流す絵画の謎

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   「これ、血の色なのかな…。  それにしてはずいぶん変な色をしているけれど」  「え?」  あおいの言葉に、僕は恐る恐る、けれどさっきよりも注意深く、肖像画が流す涙を見てみた。  それは毒々しい、赤だ。  不吉なほどに血の色をしている。  指を切ってしまったとき、痛みとともに皮膚の奥からにじみ出てくる、あの色。  無機質であるはずの肖像画の瞳からは、決して流れるはずのない、あの鮮血の色をしている。  僕は思わず目をそむけてしまった。  しかし意外なことに、あおいは肖像画の流す血の涙を、平気な顔をしてじっとみつめ続けている。  「でもせっかくだから、いちおう写真とっとこっか。  でもおかしいね、濃いメロンパン色の涙なんか流すなんてさ、なんかすごい拍子抜け。  かわいい色だよね、力ぬけちゃった。  そういえば、おなかすいたなー、ねえ、なぎ、帰りなにか食べて帰らない?」  部室でおしゃべりしているときみたいに、そんなことを言いながら、あおいはテキパキとデジカメで写真を撮っていく。  「え?」  メロンパン色?  パシャパシャと光るフラッシュのなか、もう一度、僕は、物言わぬ肖像画の女性が流す涙を見る。  やはり、それは赤い。  女性の肌は白く描かれているけれど、涙が流れている目元のあたりは、陰影をつけるために、すこし茶色っぽい油絵具が使われている。  だから、血の涙と、女性の肌は、違和感なくまとまって見える…それこそ、まさに彼女の内側から涙があふれているのだと信じられるくらいに。  だけど…そうであったとしても、影の部分である茶色めの肌地からだって、その鮮血のような赤色ははっきりと浮き上がって見える。  …これは一体どういうことなんだろう?  困った僕は、千秋のほうへと振り返った。  僕のとなりに立っている千秋もまた、あおいに写真を撮られまくっている呪いの肖像画を凝視していた。  口をすこし開けたまま黙り込んでいる千秋の顔は、驚いているようにみえた。  しかしその表情は、恐怖で…というよりも、なんだか気が抜けてしまったようなポカンとしたものだった。  千秋にも見えるだろう?  あの肖像画の女性が流している涙は、メロンパン色なんかじゃなくて、真っ赤な血の色だよな?  僕は、そう千秋に話しかけようとした。  しかし千秋は、フッといらだったような息を吐いてから、こう言うんだ。  「なんっだよ! なんもねえじゃん、なにが血の涙だよ!」  千秋は怒っているみたいだった。  いや、そんなことよりも…。  「千秋…。千秋にも、あの涙がメロンパン色に見えるの?」  まさか僕にだけ、血の涙を流しているようすが見えているのだろうか?  さっきまでの二人みたいに…。  そう考えたとたん、これまでとは違う別の種類の恐怖が、僕の背中をゾクゾクと駆け抜けていった。  おそらく、あおいには、あれが本当にメロンパン色の涙に見えるんだろう。  あおいは軽々しく嘘をつくような人間じゃないし、それに、さっきまでの彼女の怖がりっぷりを考えれば、血の色をしている涙を見た瞬間に、あおいは絶叫しているはずだ。  「なぎまで、なに言ってんだよ」  千秋は怒った顔で、僕を見る。  「なにが血の涙を流す、呪われた肖像画だよ、あの野郎…。  ただ、ふるぼけた女の絵があるだけじゃねーか!  涙どころか、水一滴すら流れてねーし!」  
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