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3 安楽椅子探偵は、かくのごとく考察する
…というような話なんだけど、…どう?
家入くんは、どう思う?」
これで、『血の涙を流す絵画』についての、一連の出来事の説明は終わったようだ。
なんだかマジで、映画とかドラマで見るような、不可思議な事件の謎を解いてくれるように探偵に依頼にきた人…みたいに真剣な顔で、五十嵐くんは俺を見ている。
ど…どうしよ…。
どう思う? って、意見を振られている…なにか言わないと…でも…。
真剣な顔でこちらを見ている五十嵐くんを見返しながら、俺はものすごく動揺した。
結論から言おう。
…ここまでの話を聞いて、俺のなかには…ひとつの明確な答えみたいなものが、自然と浮かんできている。
それはおそらく…五十嵐くんが、俺に探偵として望んでいる…つまり、それを聞いた彼が満足してくれる答えなんだと思う。
だけど…それを口にすることに俺は…すごい怖さ…いや違う、嫌悪感を持っている。
それを言うことで、死んだはずの…いや、殺したはずの、探偵もどきだった最低な自分を、呼び起こしてしまいそうで。
今、俺の手元には、目には見えない銃が置かれている。
五十嵐くんは俺に、その銃を手に取って、俺たちの前に立ちふさがっている『謎』に向かって撃ってくれと言う。
そうすれば、怪談という幻影に風穴が空き、そこに突破口が開く…そして、真実が俺たちの前に広がるからと。
そうだと思う。
確かに、この銃を手に取れば…俺はきっと上手く、『謎』を打ち抜くことができる…と思う。
でも、怖いんだ。
その銃に触れそうになる手が、震える。
思い出すからだ。
俺が、この銃を振りかざしたことで、大切な友達を傷つけてしまったときのことを。
銃を振りかざして、調子に乗っていた、あのときの最低な自分の姿を。
もう、あんな真似はしたくない。
これ以上、自分を嫌いになりたくない。
…それなら、どうする?
気づかないふりをする?
自分の手元に銃があることを、五十嵐くんに隠す?
「なんでもいいから、今までの話を聞いて、家入くんが思いついたことを話して欲しいんだ。
もう、自分だけじゃ、いくら考えても、何も思いつかなくて…」
当然ながら俺のなかの葛藤を知るはずもない五十嵐くんは、黙り込んだままの俺の顔を心配そうに眺め、そう言うと…自分の左目を辺りをこすった。
その、何気ない五十嵐くんのしぐさを見たとき、自分ひとりだけの葛藤にふけっていた俺は、ハッと現実に戻る。
「待って、もしかしてその目…五十嵐くん、その『血の涙を流す絵画』のことがあった後になったの?
何か特別な原因があったわけじゃなく、その出来事があった直後、いきなりそうなったの? それで、もしかして…関連付けてる?」
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