3 安楽椅子探偵は、かくのごとく考察する

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 そしてこんなことを言っちゃったからには、当然、次にはこういう答えが返ってくる。  「そうか、そうだね、プロフェッショナルな探偵には裏付けってやつが必要に決まってるよね、確実な真実を追い求める…それが、探偵というもの…家入くんが言いたいのはそういうことでしょう!?」  「いや、あの、その…」  キラキラと輝く五十嵐くんの期待オーラ…その突き刺さるような光が痛い。  すでに五十嵐くんの気迫に負けている俺は、口をもごもごさせるだけで、彼の弾丸トークについていけない。  「いいよ、いいよ! 家入くんの探偵としての準備ができるまで待ってる!  あ、でも、記事の締め切り日があるから、待つといっても今年中にはお願いしたいんだけど、大丈夫かな?」  「うん、絶対今年中には終わらせる…(こんな案件抱えたまま、重い気持ちで新年迎えたくないし…)てか、とりあえず一日だけ一人で考える時間ちょうだい…(もう、頭がくらくらする…)」  「一日だけでいいの? さすがだね! じゃあ返事いつでも待ってるから、ラインくれる?」  「うん…わかった…」  つくづく思う…どうして俺っていうやつは、こんなに押しに弱いんだろう…。  グイグイ来られると、いつも流されてしまう。  困ってるからってお願いされると、それが嫌なことでもNOって言いそびれちゃうんだ。  探偵まがいの行為は、もう絶対しないって決めていたはずなのに…。  それからマックの前で五十嵐くんと別れた俺は、とぼとぼと一人、かなり暗くなってきた街中を、点々と歩道に設置されている街灯の乾いた光に照らされながら歩いた。  ああ、落ち込む…。  どうして俺ってこんなにダメなやつなんだろう、意志薄弱すぎる、推理…なんて言葉について考えるだけで気分が悪くなるのに、どうして『血の涙を流す絵画』の謎を解くだなんて約束しちゃったんだろう…はあ…。  でも一度約束しちゃったからには、それを破ることなんてできない。  五十嵐くんが本当に悩んで困っているのは事実なんだし…どうにかしなくちゃ。  うちに帰る前に、今夜の晩ごはんの食材を買うため、近所のスーパーへ寄り、淡々とキャベツやにんじんなんかを手に持ったカゴへ入れながらも、俺は黙々と考えごとを続ける。  いや…もうよそう、過ぎたことをごちゃごちゃ考えたってしょうがない、もうこうなっちゃったんだから。  こんなとき犬彦さんだったら、こう言うだろう。  考えを切り替えろ、別の視点から物事を見返せって。  だから、こう考え直そう。  俺は今回、不思議な謎を解いてほしいっていう五十嵐くんのお願いを受けることにしたけど、それは、探偵として推理をするためじゃない、友人としてアドバイスをするだけ、『血の涙を流す絵画』の謎うんぬんを解決するのは、俺ではなく、五十嵐くんだ。  五十嵐くんが謎を解くために、俺は友人として謎に関する意見を述べる…それだけ。  これなら俺は探偵とはいえないし、それならば推理をする必要もない…!  …うん、いいな、コレ。  こんなふうに考え直したら、ずいぶん気分が楽になった。  スーパーに入っていく前はどんよりしていた気持ちも、会計を済ませて買い物袋を手に店を出ていくときには、かなりスッキリしていて、うちへ帰る足どりも軽い。  よーし、うじうじしててもしょうがないし、早く帰って晩ごはん作ろーっと!  
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