3 安楽椅子探偵は、かくのごとく考察する

5/12
前へ
/87ページ
次へ
 さーて、今日は何を作ろっかなー、なんて思いつつ、玄関ドアの鍵をあけて真っ暗な室内の電気をつける。  当然、まだ犬彦さんは仕事から帰ってきていない。  犬彦さんが帰ってきたら、すぐにごはんが食べられるようにするため、身支度を整えた俺はすぐにキッチンへ直行する。  買ってきた食材と、冷蔵庫のなかにある食材を見比べ、そして自分の胃袋と相談しながら、今夜のおかずを考える。  きっと犬彦さんは今夜もビールを飲むだろうから、お酒のつまみになりつつ、かつ俺の白米のおかずにぴったりな献立がいい。  ええっと…そうだな、メインは豚肉の生姜焼き、サイドでわかめとトマトのサラダと、れんこんの煮物にしよっかな。  食べたいレシピが思いついたところで、俺はいつもどおりに調理を開始する。  そして、いつもそうなんだけど、手を動かしながら考えごとをし始める。  こんなとき大抵は、リビングにあるテレビから聞こえてくる声に耳を傾けながら、学校であった面白いこととか、友達のこととか、犬彦さんのことなんかを、とりとめもなくだらだらと考えたりするところだけど、今日…というか、いま早急に考えなければならない話題はひとつだ。  そう、『血の涙を流す絵画』の謎について考えなければならない。  自分から、一日だけ一人で考えさせてほしい…なんて言ってフラグたてちゃったけど、逆に言うと『謎』を解く期限はたった一日しかないのだ!  (ああ…ホント、なんて余計なこと言っちゃったんだろう、俺!  なんとなく『謎』は解けてる…みたいな言い方しちゃったけど、俺が言う『なんとなく』は、本当の意味のなんとなくで…例えるなら目隠しした状態で『謎』の料理を食べたとき、なんとなーく醤油の味がするぞ、ってピンとくるみたいなそういうカンジで…すごく大雑把な輪郭しか見えてないんだよ。  だって日本の料理って、どんなおかずでもだいたい醤油入ってるじゃん、だから一口食べてわかるじゃん、それぐらいアバウトなことしかまだ分かってないのに…。  でもあのとき五十嵐くんは、俺の『なんとなく』を、本当はもう答えが分かっているくせに裏付けが取れてないから、謙虚な言い回しで返答を遠慮した…みたいに捉えてたっぽいよなぁ…ちがうのにぃ…。  はあ…とりあえず、今からちゃんと冷静に『謎』について考え直してみよう…。  まあ、ぼんやりとした輪郭は見えているのは確かなんだから…)    
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加