2 血の涙を流す絵画の謎

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   「千秋の案内で、ある日、僕たち二人は美術室に向かった。  情報提供者である、千秋の知り合いの美術部員から、くわしくインタビューを取るためにね。  僕と彼は初対面だった。  彼は僕らを快く迎えてくれたものの、七不思議について話がおよぶと、まるで何かを恐れているかのようにしばらく言い渋り、なかなか『血の涙を流す絵画』の怪談話を進めてくれなかった。  だけど、それでも僕が必死にお願いすると、ちらりと千秋の顔を見てから、匿名であることを条件に、きょろきょろと周囲に僕ら以外の人間がいないことをあらためて確認してから、ひそひそと耳打ちするように、こんな話をしてくれたんだ。  「美術室のとなりにさ、美術準備室ってのがあるんだけど、知ってる?  知らないよな、すっげー目立たない扉が美術室の端にあって、そこが入り口。  美術室に隣接してんだけどさ、ざっくり言っちゃえば、ただの物置。  めったに使わない美術用具とか、ずっと昔に作成された作品なんかが置かれてるんだけど、たまに部員や先生が、必要なものを取りに行ったりするだけで、基本的には開かずの部屋ってカンジかな。  で、ここからが本題。  あくまで噂だからな、オレも本当のところは知らないよ。  最初にはっきり言っとくからな。  ここからは新聞部、おまえらの自己責任だからな、わかってるな千秋」  彼は言い含めるように千秋に視線を向けた。  それに千秋は、にやりと笑って返していた。  すこし肩をすくめてから、彼は僕のほうに向きなおり、真面目な顔で話を続ける。  「でな、その美術準備室には、キャンバスに描かれたたくさんの油絵なんかも無造作に置かれてんだが、そのなかに一枚、呪われた絵ってのがあるらしいんだ」  呪われた絵?  僕がその言葉を繰り返すと、彼はウンウンとうなずいた。  「噂で聞いただけで、オレ自身は見たこともない。  そう、どういう経緯で誰が描いた絵なのか、今となっては知る者もいない。  とにかくだな、それはある美しい女性の肖像画らしいんだが、それが、満月の夜になると、血の涙を流すらしいんだよ…!」  それだーー! って、そのとき僕は思わず大きな声を上げちゃったよ、なんという七不思議のトリに相応しい理想的な怪談なんだろうと思ってね」  いやだーー!! っと、このとき俺も恐怖心から叫びだしたい気持ちでいっぱいだった、恥ずかしいから涼しい顔をしてなくちゃいけなかったけど。  うううぅぅっ…知りたくもない知識がまた増えてしまった…もうやだ、もう美術室に近づけないぃ…。  「さらに彼は続けてこう話してくれた。  「それだけじゃないぞ、その絵の中の女性が語りかけてくるらしい…。  ここはさびしい、私をひとりにしないで…ってな」  まさに七不思議のオオトリにふさわしい、最高のエピソードだった。  そのとき、僕たちのテンションもまさにMAXだったね」  んぎゃあああぁぁあぁっ!! 怖いぃぃっ!!  絵がしゃべるとか無理ぃぃぃっ!! 夜眠れなくなるぅぅ!  「こういった話の流れから、情報提供者である彼と僕たちの取引が、うまい棒10本で成立し、次の満月の日に一回だけ、こっそり美術準備室の鍵を貸してもらえることになったんだ」  「う、うまい棒10本で買収したんだ…。(いいな、うまい棒…何味?)  えっ? ていうか鍵を借りたって…まさか、五十嵐くんたち…満月の夜に美術準備室へ侵入したってこと? 怪談の検証のために?」  それまでの俺にとっての(優等生的な)五十嵐くんのイメージから大幅にはみ出す、大胆っぷりの行動だ。  ってよくそんな、夜の学校に侵入することもそうだけど、恐ろしい絵を探すためだけに怖い部屋に入れるよね!?  俺だったら、となりに犬彦さんがいても、けっこうキツイよ!?  「そう、そして準備万端にして待ちに待った、満月の夜。  僕たちはそれぞれがスマホやデジカメを構え、最高の新聞記事を書くために、美術準備室へこっそりと忍び込んだんだ」      
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