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4 犬彦からのヒント
「ただいま、江蓮」
「おかえりなさい、犬彦さん!」
予想通り、そこには黒のロングコートにスーツ姿の犬彦さんが立っている。
そのまま玄関先で脱いだコートをわきに抱えながら、ネクタイを緩めつつ廊下を歩く犬彦さんの横を、俺も並んでついていく。
当たり前だけど今日犬彦さんに会うのは、今朝犬彦さんが会社に行くのを見送って以来だから、いちおう久しぶりの再会と言えるわけで、犬彦さんの顔が見れてうれしい。
どうやら相変わらずのポーカーフェイスの犬彦さんのほうも現在、どっちかというと機嫌が良いモードみたいだ、よかったよかった。
「ごはんの支度できてるんで、いつでも食べられますよ。
あ、だけどお風呂も準備してあるんですぐ入れますし、犬彦さんどっち先がいいですか?」
「江蓮、お前はもう風呂に入ったのか?」
「俺はごはんの後にしようかなって思ってて、まだです」
「そうか、それならすまないが先に風呂に入ってきてもいいか?
食事の後片付けは俺がやる、とにかく着替えたい…」
そのまま犬彦さんは自分の部屋へ入っていったので、俺はキッチンへ戻る。
犬彦さんはいつも、お風呂は長居せずにすぐ出てくるタイプなので、上がってきたらさっそく晩ごはんが食べられるよう、テーブルにおかずを並べておこうと考えたからだ。
それぞれのお箸や茶碗、グラスと、出来上がっていたサラダをテーブルの上に置くと、次にフライパンで豚肉を炒め始める。
これで出来上がったばかりの熱々な豚の生姜焼きを、犬彦さんに食べてもらえる。
完成した生姜焼きを、キャベツの千切りが添えられた大皿に盛りつけて、ふーっと一息つき、あとは簡単にキッチンの片づけを済ませたところで、お風呂から上がってきた犬彦さんがナイスタイミングでリビングへやってくる。
犬彦さんは冷蔵庫から缶ビールを一本取り出し、俺は茶碗に白米をよそう、いつもの席に座ると、俺と犬彦さんはテーブルで向かい合って、いただきますのあと、ごはんを食べ始めた。
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