18人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから3年が経った。2人で迎えた水曜日は、もう数え切れないくらい。
「……」
彼女の家に続く細道を歩きながら、ノブモトは先週の水曜のことを思い出していた。
一緒に過ごすのは、陽が沈むまで。
どちらが言いだしたわけではないけど、2人の間にはそんな決まりごとがあった。
その日は、家の中にいた。
とりとめない会話をするうち、まい子の部屋が徐々に薄暗くなっていく。
「明かり、つけましょうか」
ノブモトが立ち上がった。ベッドの上で休むまい子に代わって、蛍光灯のひもを引っ張る。
「それではまい子さん、私はそろそろ……」
見ると、まい子は窓の外を見ている。ノブモトが話しかけたときにそっぽを向いているなんて、初めてのことだ。
「……のに」
顔をそむけているので、彼女が何と言ったのかわからなかった。
「はい?」
うっかり変な声が出た。
「まい子さん、何か言いました?」
「……」
帰らねばならないが、しかしこんな彼女を放っておけない。ノブモトはベッドの反対側に回りこんだ。丸椅子を引っ張って、正面から向かい合って座る。
「まい子さん、」
少し下がった眉、呆然とした瞳、半開きになった唇。何か言いたそうで言えない表情が、ノブモトの心を小さくつねる。
「ノブモトさん、」
まい子がそう呼びかけて、目を合わせた。
「はい、何でしょう」
極力、優しく答える。彼女が、話しやすいように。
突然、まい子が膝の上の布団をはねのけた。力の入らない体を無理に動かして、ノブモトに飛びこんできた。そのまま首に腕を回す。
「???」
何だこりゃ、と思った瞬間、グラリと身体が後ろに傾いた。相手が抱きついてきたなら、受け止めてやらなければならない。ポカンとしていたら勢いで倒れるのは当たり前だ。
最初のコメントを投稿しよう!