花言葉はお好きですか

2/12
前へ
/57ページ
次へ
 あれから3年が経った。2人で迎えた水曜日は、もう数え切れないくらい。 「……」  彼女の家に続く細道を歩きながら、ノブモトは先週の水曜のことを思い出していた。  一緒に過ごすのは、陽が沈むまで。  どちらが言いだしたわけではないけど、2人の間にはそんな決まりごとがあった。  その日は、家の中にいた。  とりとめない会話をするうち、まい子の部屋が徐々に薄暗くなっていく。 「明かり、つけましょうか」  ノブモトが立ち上がった。ベッドの上で休むまい子に代わって、蛍光灯のひもを引っ張る。 「それではまい子さん、私はそろそろ……」  見ると、まい子は窓の外を見ている。ノブモトが話しかけたときにそっぽを向いているなんて、初めてのことだ。 「……のに」  顔をそむけているので、彼女が何と言ったのかわからなかった。 「はい?」  うっかり変な声が出た。 「まい子さん、何か言いました?」 「……」  帰らねばならないが、しかしこんな彼女を放っておけない。ノブモトはベッドの反対側に回りこんだ。丸椅子を引っ張って、正面から向かい合って座る。 「まい子さん、」  少し下がった眉、呆然とした瞳、半開きになった唇。何か言いたそうで言えない表情が、ノブモトの心を小さくつねる。 「ノブモトさん、」  まい子がそう呼びかけて、目を合わせた。 「はい、何でしょう」  極力、優しく答える。彼女が、話しやすいように。  突然、まい子が膝の上の布団をはねのけた。力の入らない体を無理に動かして、ノブモトに飛びこんできた。そのまま首に腕を回す。 「???」  何だこりゃ、と思った瞬間、グラリと身体が後ろに傾いた。相手が抱きついてきたなら、受け止めてやらなければならない。ポカンとしていたら勢いで倒れるのは当たり前だ。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加