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「ううっ」
ノブモトは右手でまい子の体を支え、左手を後ろの壁について己を支えた。
「待って、まい子さん、倒れる……倒れる……」
ふぎぎ、と変な声を漏らしながら、どうにか体勢を戻した。
「まい子さん、どうしたんです。えと……いったんベッドに戻りましょうか」
「……嫌」
耳元で、苦みの混じった声がした。
「嫌よ……だめ」
「まい子さん、落ち着いて」
ノブモトはまい子の薄い背を撫でた。撫でつつ、これはどうしたものかと眉を下げる。
「帰らないで、ここにいて下さい……ずっと私の側にいて」
「まい子さん、私はここにいます」
「私、あなたが好きなの」
ノブモトの目がまん丸になった。多くの人生を見てきた彼だ。いくらノブモトとて(?)その意味くらいわかる。
まさか……いや、これはいわゆる一時の迷いってやつでは?
などとぼんやり考えていたら、いきなりまい子が体を離した。
彼女も驚きの表情を浮かべ、目を丸くしている。
「今、私……」
「あの、まい子さん」
「すみませんでした!」
まい子はベッドに素早く戻ると、背を丸めて頭を下げた。
「えっと、」
「今のは忘れてください」
「いえ、あの」
ノブモトがそっと背中に手を伸ばす。触れた瞬間、まい子が布団をつかんだ。頭からスッポリかぶって姿を隠してしまう。
「お願い、忘れて……」
ぐすっと潤んだ音がした。
「まい子さん、」
「帰ってください……もう、夜ですよ」
ノブモトの目がまた下がる。参ったと言わんばかりの表情で、天井を仰ぎ、まい子を見下ろし、窓の外を見た。
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