花言葉はお好きですか

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 正面から入って行くと、家の人に見つかる恐れがある。  だから、家が見えてきた段階で道を外れて、まい子の部屋に大回りするのだ。  身をかがめて、窓の下まで寄って行く。ピタリと背を壁につけて、辺りをうかがう。  例によって、人がいないことを確認してから、そろそろと窓を覗いた。  まい子はベッドに寝ている。横向きで、こちらに背を向けていた。顔が見えないから、眠っているのか目は覚めているかの判断がつかない。 「これは待った方がいいか……?」  さあ、どうしたものかと考えつつ、さらに部屋を覗きこんだら――眼鏡が窓ガラスに激突して落ちた。 「あ、」  膝に落ちた眼鏡を拾い上げると、半身を起こしてこちらを振り返っているまい子と目が合った。どうやら起きていたらしい。  まい子が人差し指と中指で丸を作り、OKサインをする。窓の鍵は開いていますよ、の合図だ。  そっと窓を引く。ゆっくり開けた後、靴を脱いで足から部屋に入った。 「こんにちは、まい子さん」 「こんにちは、ノブモトさん」  答えて微笑んだ彼女は、少し疲れて見えた。 「起こしてしまいましたか?」 「いえ、横になっていただけです。寝てはいませんでした」 「……」 「……」  ノブモトはベッドの脇で立ったまま、まい子は布団に目を落としたまま。 「ノブモトさん、」  まい子が、うつむいたまま言った。 「先週は……失礼なことをして、すみませんでした」 「いいえ、気にしていませんから」 「私からその……しがみついておきながら、帰ってだなんて、ひどいこと言ったから……」  まい子の声が震えた。 「もう、来てくれないかと思った……」  言葉にしたら、不安と安堵が表に出たのだろう、唐突に顔を覆った。 「えっ」  声を上げて泣きだしたまい子を見て、ノブモトはギョッとした。好きな女性に泣かれるなんて心臓に悪いし、声を聞きつけて誰か来たらたまったものじゃない。 「あの、いいですか、まい子さん」  あわてて、丸椅子を引っ張り、いつものように傍に座る。 「約束したでしょう、必ず来ますって。勝手に破ったりしませんよ」  まい子が顔を上げる。 「で、でも私……」 「それに今日は、何があっても絶対来るつもりでした。約束を抜きにしても」 「?」  不思議そうなまい子の顔。涙は止まってくれたらしい。 「あなたに会って、言わなければならないことがあったから」 「……」
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