花言葉はお好きですか

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「えっと、言わなければならないんですが、」  ノブモトは困ったように頭をかいた。 「その、私はあまり口が上手くないので――こうしてみました」  右手を後ろに隠す。一拍置いて、スッと差し出したのは――赤とピンクのバラの花束だった。 「あっ……」  白いまい子の頬に、赤みが差す。バラの上に咲く彼女の顔が、花束の中で1番美しかった。 「こういうのは、お嫌いですか?」  尋ねるノブモトの笑顔も、少し赤い。 「いいえ」  驚いたまま、まい子が首を横に振る。それから、ハッとして、今度は微笑みながらもう1度否定した。 「いいえ、とても……嬉しいです」  そっと手を伸ばして、バラを受け取る。 「まい子さんの持っている本に、花言葉が載っていましたよね。どれでしたっけ」 「ああ、それなら……そこの右から2番目です」  ノブモトが立って、言われた本を手にする。 「バラの花言葉は本数によって違いますから」 「もしかして、意味を込めて?」 「もちろんです」  該当のページを開き、椅子に戻る。 「11、12……」  嬉しそうにバラを数えるまい子の横顔を見つめる。言いようのない幸福感に包まれた。 「全部で15本ですね」 とまい子が言った。 「ええ」 「何でしょう、15本、15本」  上から1本『一目惚れ』、2本は『この世界はあなたと私の2人だけ』。 「15……あれ、15本ないですよ」  順に指で示していたまい子が、首を傾げた。 「え、そんな」  ノブモトが動揺して声を上げた。 「調べたんですよ、ちゃんと意味があって――」 「あ、ノブモトさん、ありました」  まい子が示したのは『ネガティブな意味を持つ本数』。  15本のバラが持つ言葉の意味は――『ごめんなさい』。 「……」 「……」  まい子が、そろそろと隣を見た。 「間違えました……」  ノブモトはそう言って、顔を覆った。
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