18人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
ノブモトに視線を戻したら、彼が小さく笑った。
「まい子さん、受け取ってくれますか」
「……はい」
返事が震えた。手を伸ばし、バラを抱き寄せる。
「嬉しい……私、幸せです。大好きなノブモトさんに、こんな風にしてもらえるなんて」
「まい子さん、その……」
ノブモトの顔が赤くなる。えふんと咳ばらいをした。
「私のことが好きって……」
「いつからかはわかりません。でも、水曜日にあなたが帰った後、すごく苦しくなっていることに気がついて」
とまい子は言った。
「病気、じゃなさそう。じゃあ何だろうと思ったら、ノブモトさんと別れるのが寂しいんだって……」
照れながら、彼女がそっと花束を撫でた。
「私、夕暮れが嫌いになりかけてました。あなたとの別れを思い出すから。今日が終わらなければいいのに、そしたらノブモトさんはずっと私の側にいてくれるかしらって」
「……」
「でも、そんなこと言ったら迷惑だとわかっていましたから、言えなくて……。なのに、結局抑えられなくて先週はあんなことをしてしまったんです。本当に――ごめんなさい」
「謝ることではありませんよ」
とノブモトは言った。
「あなたのおかげで、私も自分の気持ちに気が付けたんです。謝罪なんてとんでもない、私があなたに礼を言うべきなんです」
「礼だなんて、」
「ありがとうございます、まい子さん」
まい子が何か言おうとして口を開いた。そして――言葉に表せなかったのか、何も言わずに首を振った。
最初のコメントを投稿しよう!