花言葉はお好きですか

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「まい子さん、また来ます。これから行かなければいけないところがあるので」  レースカーテンがクルクルと、はためいた。 「私の暴走を止めて、クニモトを救ってくれた恩人のところへ。私が彼女の時間をいじってしまったんです。見届けなければ、気が済まない」  ノブモトは、ズレてもいない眼鏡を直した。 「まあ……あの人なら、何があっても自分で自分の人生、決めていきそうですけどね。念のためです」  部屋の中を見て、薄紅の屋根を見上げて、広い草むらを見て、景色を目に焼き付ける。 「それでは、まい子さん。私は帰ります。また――」  言葉が切れた。  鼻に、バラの香りが届いたからだ。自分が出したものは全て消したはずだが――。  空を仰いで、目を見張った。  一面、赤とピンクのバラ。先ほどの倍以上の花が、宙に咲いている。 「まさか……いや、そんなはずは、」  あまりの衝撃に膝から力が抜ける。1歩踏み出して、どうにか耐えた。 「まい子さん、」  違う、あり得ないと思う理性を飛び越えて、つい数を数えていた。  バラはゆっくりとノブモトに舞い降りて、その肩に、頭に、腕に触れては、すうっと消えていく。 「998……?」  最後のバラが消えた。はて、998本の花言葉など、あっただろうか。 「数え間違えたか、私の幻想か」  ぼんやり独りごちたノブモトの眼前を、赤いバラがスッと通った。 「あっ」  思わず、触れたくて手を伸ばした。が、バラはするりとかわす。もう1度、ふわりと浮かび上がると、ノブモトの襟元へ流れて行った。  スーツの襟の穴飾り。そこに触れて――落ち着いた深紅が美しい、バラのブートニアとなった。  指先で、そっと撫でる。 「あなたも、にくいことをしますね。まい子さん」  ノブモトの微笑みにつられて、バラがくすっと笑った気がした。  999本のバラの花言葉。 『何度生まれ変わっても、あなたを愛する』。 313fbdb8-bc89-48f3-a083-502d65121a0e
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