その瞳に惹かれて

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その瞳に惹かれて

 こんな人生退屈だ。  月並みな言葉を吐き捨て、私は素足で石ころを蹴飛ばした。モノクロの世界で蹲る人間にそれは当たったが、あれはたぶんもう死んでいる。  かろうじて体を覆うボロ布は、春先の風に揺れて吹き飛びそうだった。生温い風が殴られて切れた頬や傷だらけの肌に染みる。だが、それすらもうどうでもいい。私は今から、全てを終わらせにいくのだから。  端的に言えば、死のうと思った。金もなければ、帰る家もない。ドブネズミ同然の生活には何の希望だってないからだ。出来ることなら、サクッと死んでしまいたかった。  だから、このスラム街にも転がってきた噂に縋ることにした。金を貢げばどんな人間でも殺してくれる腕利きの殺し屋がいる。私は今、ソイツに会いに行くためにフラフラの体に鞭を打って歩いているのだ。  だが、生憎金など一銭もない。だから、そこらで拾った汚いリングで手を打とうと思った。そのリングが、一瞬だけ金色に輝いたように見えたからだ。金持ちの象徴であるその色は大嫌いだが、今の私の願いを叶えるには丁度いい。この際薄汚れていようと構わない。これを手渡して逆上されて殺されたなら、それはそれで満足だ。 「……みつけた」  私は口角を上げた。大量のゴミ袋が転がる路地の奥。木箱が積み上がった場所。そこに目当ての殺し屋はいた。  ペタペタと汚い足音を立てて進めば、ゴミを漁っていた烏が騒がしい声をあげて飛び立つ。箱の一番上に座った黒いローブの男がこちらを向く。ギラリと鋭利な光輝を放つ金色の瞳がこちらを向いた。  あ、このリングを拾った時に見たのと同じ色だ。  嫌悪の感情より先にそう思った。最後の最後まで嫌いな色に見つめられるなんて、本当に私は神様に見捨てられているんだな。  そう自嘲気味に笑いながら、私は男にリングを差し出した。 「これやるから、私を殺して」
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