その瞳に惹かれて

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「ねぇ、貴方の名前は?」 「サクだ」 「サク……綺麗な名前だね」  何となく春の煌めきのようなものを感じた。そう言えば、サクは不思議そうに首を傾げた。 「んじゃ、本題に入るぞ。ミーナ、何で俺に殺してなんて頼みにきたんだ?」  ふっくらと焼けたパンを一口齧り、サクは真剣な顔で訊ねてきた。 「生きることに飽きたから。だって、あんな街で暮らしてても何もないもの。こんな番号までつけられちゃったし、いくら綺麗になろうと普通の子たちと同じ暮らしはできないから」  スプーンを置いて、私は淡々と言う。親の顔も人の愛情も、何もかもを知らない私は生きる価値などない。こんな地獄で生き続けるくらいなら、いっそ死んで本物の地獄に行った方がマシだと考えた。 「私には生きる価値がないの。神様に見放されちゃったから。だから、サクの噂を聞いて殺してもらおうって思ったの」  射貫くような視線から逃げないように、真っすぐと彼を見据えて答える。嫌いな金色がじっと私を見つめている。スープの湯気に混じる沈黙が少しだけ怖かった。 「……俺はよぉ、生きてりゃいいことあるだとか、頑張れば報われるだとか、そんな無責任な言葉は嫌いだ。でもな……」  サクは立ち上がり、向かいに座っている私の許へ歩み寄ってくる。殴られる、そう思った私は反射的に目をギュッと瞑った。 「死ぬにはまだ早いんじゃないか?」  降ってきたのは、怖そうな顔に似合わぬ優しい言葉と、大きな手の温もりだった。恐る恐る目を開けば、間近に迫る金色が煌めいた。 「……じゃあ、私に価値を与えてよ。サクと同じ殺し屋にして」  金色から目を逸らして、私は喧嘩を売るみたいに強めの口調で言う。そうすれば「それは無理だ」とあっさりとした返事が返ってきた。 「じゃあ、欲の処理にでも使ってよ」 「もっと無理だわ!そんなのさせられるか!」 「……サクって本当に殺し屋なの?」  顔を真っ赤にして机を叩いたサクに、私は呆れた視線を送る。サクはしばらく目を泳がせた後、ぽつりと小さな声で言う。 「……ただ、ここで過ごしてればいい。飽きたら出てけばいいからよ。飯の作り方とかいろいろ教えてやる。その果てにまた死にたいと俺に頼んだなら、その時はちゃんと殺してやる」  「どうだ?」とニヒルに笑って問う彼の瞳が黄金に光る。どれだけ手を伸ばしても手に入らない高価なもの。用意されなかった幸せが持つ色。その色が妬ましくて、大嫌いなはずなのに。何故だか、サクの瞳の色は嫌いになれなかった。 「……金色」
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