Ⅰ ニーベリンゲンの唄

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 レヌーズの黄金……それは、このレヌーズ川のどこかに隠されているという莫大な黄金と、その黄金から造られた魔法の指輪〝アンドヴァラナウト〟のことをいう。  じつはこのお宝、うちの一族とも無関係じゃねえ。ちょっと長くなるが、今度のお宝のことを理解するには必要不可欠なんで、そのあらましを話しておこう……。  伝説によると、もともとその黄金はアンドウアリィという小人(ドワーフ)の持ち物だったんだが、あることをきっかけにニーベリンゲン族のフレイズマンという者の手に移ることになった。  フレイズマンにはファフニル、オテル、レギーンという三兄弟の息子がいたんだが、旅をしていたヴォーダン、ロキ、ヘーニルの三柱の神がカワウソに化けていたオテルを誤って殺してしまい、その賠償金をフレイズマンが求めたところ、悪知恵の働く神ロキはアンドゥアリィからその黄金を奪ってこれに当てたんだな。  無論、奪われたアンドゥアリィは納得がいかねえ……で、この時、「黄金を手にする者には永遠の不幸が訪れる」という呪いをかけた。  これが、この黄金にまつわる呪いの始まりだ。  その呪いはすぐに発揮される……莫大な黄金と指輪を手に入れたフレイズマンだったが、それに目が眩んだファフニルが父親を殺して奪い取ると洞窟に隠し、自分は毒を吐くワーム(※ドラゴンの一種)になってその黄金を守り始めたんだそうな。  すると、兄弟揃って強欲というかなんというか、ファフニルの弟のレギーンまでがその黄金を自らのものにしたくなっちまった。  でも、相手の兄貴はもう小人(ドワーフ)じゃなく、今や恐ろしいワームだ。  そこで頼ったのが、鍛冶師として仕えていたダンメルク王ヒャルブレイクから養育を託されていた英雄シグムトの遺児で、やはり英雄となる後のサンダーラント王〝シーグルーズ〟だった。  豪傑であった彼を誑かし、自らの鍛えた岩をも真っ二つに斬りさく聖剣〝グラム〟を授けて兄ファフニルを殺させるって寸法だ。  その悪だくみは功を奏し、英雄シーグルーズは川の近くに穴を掘るとその身を隠し、ファフニルが水を飲みに来たところを下から心臓を貫いて見事〝竜殺し〟を果たしてみせたんだが……その後がいけねえ。さらに欲をかき、シーグルーズまで殺して黄金を独り占めしようとした弟レギンだったが、あえなく返り討ちにあうと兄貴同様にお陀仏だ。  そうして、残された黄金はシーグルーズが持ち帰り、大金持ちになった彼は家族達と幸せに暮らしましたとさ。めでたし。めでたし……  となるのが昔話の定石だが、この伝説はそんなハッピーエンドには終わらねえ。プレジラントが誇る英雄だからってえこひいきされることなく、かのシーグルーズの上に等しく不幸は襲いかかる。
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