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現れない友
土曜日。
天気は曇り空で、気温は低く、道を行き交う人はコートや帽子を着用している。そんな寒い中、私は映画館の前でりかこが来るのを待っていた。
私はバックに入っていた携帯電話を取りだし、時間を眺めた。
九時四十分。
あと二十分後には映画が始まる。
携帯電話をしまい、私は両手に息を吹きかけた。私の胸は希望と期待で一杯である。今日を最高の日にしたいな。
「寒いな……」
私は両手で自分の体をさすった。中にも待ち合わせ場所はあるけど、りかこをすぐに見つけられるようにするため。
どれだけ寒くても、どれだけ暑くても、りかこの道しるべになるためには欠かせない。
「りかこ遅いな……また寝坊でもしたのかな?」
私は小さな声で呟いた。旅行に行く際りかこは集合時間ギリギリになってやって来る。彼女の悪癖は分かっているが、やはり早く来て欲しい。
ちょっとでも長くりかこと過ごす時間を共有したい。
この機会を逃せば次に一緒になる事は難しい、りかこは遠くに行ってしまうため、お互い会って、どこかに遊びに行く事など滅多にできなくなってしまう。
それに、前の羅列……いや数学のテストはりかこの丁寧な指導のお陰で、六十四点も取れた。お礼をかねて今日の昼ごはんは私がおごりたい。
「早く来ないかな」
私は複数の人々が映画館の中に消えてゆくのを眺めた。
時間も流れるように過ぎてゆき、私はふと、電光掲示板に映し出されている時計に目をやると、九時五十五分を差していた。
……あと五分で始まる。
りかこは時間ぎりぎりになっても現れない、一体どうしたのだろう?
心配になった私は、携帯電話でりかこの携帯に電話をかけた。しかし何回鳴らしてもりかこは出ない。
キリが無いので一端切った。
「もしかしたら忘れていったのかもしれない」
胸に満ちた希望をすり減らさないためにも、私は出来る限り前向きに考えた。
電車が遅れることもだって十分に考えられるし、りかこのことだから電車を乗り間違えることだってある。
最後の思い出作りをすっぽかすような真似をするなんて有り得ない、友達思いのりかこのことだから、きっと大丈夫。
多少遅れて私に
「めぐ、遅れてごめーん!」
そう言うに決まっている。りかこは昔から約束を破らないもの。
……が、私の前向きな思いとは裏腹に、二時間待ってもりかこは現れなかった。
最初の上映が終了し、映画館の中からは、まばらな人だかりが出てきた。本当ならば、私とりかこがあの人だかりに混ざって、一緒に映画の感想を語り合っていたのに。
どうして連絡の一つもよこさないの? 何があったのか心配だよ。
寒いし、りかこは来ないし、せっかく希望に満ちて良い日になると思ったのに、これじゃ台無しだよ。
私は鳴るお腹に手を当てた。そういえばちゃんと朝ごはん食べていなかったっけ。
これ以上待っていても仕方ないと思い、私はりかこと一緒に行くはずだったレストランへ足を運んだ。
テーブルにはこんがりと焼けたハンバーグと白いライスが一緒に置かれていた。私はフォークとナイフを使いハンバーグを口の中に運ぶ。
……本当なら美味しいはずなのに、ちっとも美味しくない。
私の大好きな食べ物なのに、きっとりかこと一緒じゃないからだ。
周辺にあるどこの席も複数の人間で埋まっており、一人で座っている席はほとんど無い。私の隣にはりかこはいない。
何だかさみしいなぁ。
私は砂を飲み込むかのように、ハンバーグを喉に通した。
色んな話をこのレストランでしたかった。下らないことや、引越し先の学校についても、とにかく沢山。
二時間前までは胸に希望が一杯だったのに、りかこが来ないことによって空っぽになってしまった。
些細なことにより、楽しい気持ちが失われるなんて嫌だな。
私、りかことの時間を楽しみしていたのに。
「ふぅ……」
私は溜息を交えてナイフとフォークを置いた。いつもなら全部食べるハンバーグも今日ばかりは半分残した。あまり食べたくなかったんだもの。
りかことは長い間付き合ってきたけど、こんな事は初めてだよ。
りかこの家に行って様子を見に行こうか、いや、やめておこう。
今の私はひどく嫌な気分だ。このままりかこの家に行ったら、苛立ちのあまりひどいことを言いそうで怖い。
中一の頃に、些細な意見の食い違いが原因で私とりかこは大喧嘩をして、三ヶ月も口を聞かなかったことがある。仲たがいしている時のりかこは、別人にでもなったかのように恐ろしく思えた。私を見る目つきは怒りで一杯だった。
喧嘩は何度かしてきたが、あの時ほど苦い思い出が残った記憶は無い。
その後、りかこが謝って仲直りしたけど、もう二度と大喧嘩はしたくないよ、あんなりかこは見たくないから。
しばらく悩んだ末に、私はりかこ宛にメールを送ることにした。できるだけ柔らかい文章で。
『りかこへ
私はもう帰るから、映画館にはいないよ。
勝手に帰ってごめん
めぐより』
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