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プロローグ
物心がついたときにはもう夏菜ちゃんが好きだった。相手は血縁者だなんて判断できる年齢じゃなく、ただきゃらきゃらとよく笑う姉のような夏菜ちゃんに夢中だった。
——なつなちゃんだいすき!
——大きくなったらぼくの恋人になって。
昔は太陽みたいな笑顔で「私も大好きだよ」と返してくれた夏菜ちゃんが、中学にあがって背丈が伸びはじめた頃から取り合ってくれなくなった。
『さくちゃん、お姉ちゃんといくつ離れてると思ってるの。十五だよ。私にとってさくちゃんは可愛い甥っ子で、大事な家族なの!』
『そんなの関係ない! いつになったら男として見てくれんの?』
何十回フラれても食い下がる甥に、夏菜ちゃんは深々とため息をこぼした。
『……さくちゃんが十八になっても私のこと好きだったら』
途端にぱあっと視界が晴れた。
生まれてからずっと夏菜ちゃんのことが好きだった。あと五年で彼氏になれるならいくらでも我慢する!
期待を胸にひたすら未来を信じて突き進んだ槊葉は、いつの間にか高校二年生へと成長していた。
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