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恋のおわり 02
イライラしながら録画を中断すると、飲みかけのコーヒーを持った安藤が移動してきて、しれっと槊葉の向かいに座った。
「なんで座んの」
「槊葉とお茶したいから。なっちゃんラムネソーダお願い」
「はーい」
勝手に注文すんなと心の中で毒づきつつ、普段からラムネソーダ一択の槊葉は言い返せない。
「怒んなよ。リスみたいにほっぺた膨らませて、またアメ?」
断りもなく形のいい指で頬をするりと撫でられ、心臓がバウンドした。
(ななな何やってんの! 甘い! チャラい!)
この男は初めて会った時からこうだ。気安く話しかけてきたり、触ってきたり、勝手に下の名前を呼んだり。その上いかにも女ウケがよさそうな甘い顔立ちをしていてタチが悪いったらない。
「夏菜ちゃんに手出したらぶっ飛ばす」
小声ですごむと目の前の男が小首を傾げる。
「槊葉にならいい?」
「バッカじゃねえの!」
「お待たせ」
思わず足を踏みつけてやろうとしたところで、夏菜が注文していたラムネソーダを持ってきた。暗黙の了解で会計を安藤の伝票に加える。
BGMは『SAKURA《サクラ》ドロップス』へと変わっていた。
しゅわしゅわ弾ける液体の底でビー玉が光を反射して輝いている。
「さくちゃんが生まれた年の曲だよ」
得意げに笑う夏菜の顔に見とれた。
宇多田ヒカルのファンである彼女は、店の名前を曲名からとってDROPSと名付けた。
店内にはビー玉のインテリアがたくさん飾られているが、それを制作しているのが安藤だと知った時は驚いた。
世間からはビー玉アーティストと呼ばれ、彼の作品は雑誌やCMの撮影にもよく使われている。
「こら槊葉。なっちゃんばっか見てないで少しは俺にも興味持って」
「はあ?」
気持ちを見透かされていることに驚いて声が裏返った瞬間、ドアベルが来客を告げた。
「達也くんいらっしゃい!」
店に入ってきた男の顔を認め、夏菜の顔がとろけるように甘く破顔する。
一目見てわかる親密な気配に息が止まりそうになった。
「夏菜、サイズ直してきたよ」
真面目そうな男が小さな包みを差し出し、夏菜が嬉しそうにそれを受け取ると、中から小さな四角い箱が出てきた。
ザアッと血の気が引く。
指先がカタカタと震えた。
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