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タイムスリップ!? 02
「スマホって何? ゲーム機?」
「そのネタもういいって。浜っ子に高度なツッコミ求めんな」
あきれ混じりに言うと「ボケてないし」と安藤が困惑気味に答えたため、槊葉の方も戸惑った。
「え、ガチ? ケータイとか持ってないの?」
「ケータイなら持ってるけど」
差し出されたのはスマホ三台分はあろうかと思われる分厚い折りたたみケータイで、槊葉の頭の中をハテナマークが盛大に乱舞する。衝撃は一拍置いて爆笑に変わった。
「あっはははは、なんだよこの化石みたいなガラケ!」
「なんだよ化石って。最新機種だぞ」
「はあ? どこにこんな時代遅れの機種があんの。画像も粗すぎるしここに——」
(あれ……?)
ひいひいと爆笑していた槊葉だが、小さな画面の下にJ—PHONEという見慣れない文字と、液晶部分の日付『2002年』に視線が縫い止められた。
「えーと、なにこれ? いくらガラケでも日付がこんなに狂うってありえないよな……」
脳内のハテナマークは混乱を極め、頼りなくさまよう。
安藤の携帯電話には見たこともないほど古くさい液晶画面がついており、デジタル特有のガタガタ文字に、見慣れないキャリア名、十七年も前の日付が刻まれていた。
安藤とのかみ合わない会話やおもちゃにしか見えないガラケを眺めていると、ひとつの可能性が頭に浮かんだ。
(君の名は……? ってかあれはアニメ!)
もちろんノンフィクションに君の名は現象が存在しうるはずがない。
槊葉はクイズのようなノリで安藤その二に尋ねた。
「今日は何年何月何日でしょーか」
「平成十四年五月二十日だけど」
いやいや元号変わったばっかだし、と内心冷や汗をかきながら安藤の顔を見る。からかう様子はない。なんなら心配そうな瞳さえ向けてくる。
「なるほど、これ夢だ!」
ひらめいた答えに槊葉はウンウンうなづいた。
自転車に吹っ飛ばされた衝撃と失恋のショックで気を失っているに違いない!
謎がとけたはいいが、少し前の状況を思い出して胸がズシンと重くなる。
(俺失恋したんだ……。夏菜ちゃんに結婚したい人がいた……)
苦い気持ちが急激によみがえり、槊葉はその場に座り込んだ。驚いた安藤その二――否、安藤本人が慌てて隣にしゃがみ込む。
「大丈夫? やっぱどっか打ったんじゃ」
「俺、さっき失恋したの……」
情けなく涙を浮かべる槊葉に、安藤少年がポケットティッシュを差し出した。かける言葉が見つからないのか無言のままだ。
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