タイムスリップ!? 03

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タイムスリップ!? 03

 きっと大人の安藤だったら槊葉を抱きしめて気の利いた言葉の一つや二つかけただろう。今の安藤はそれができない子供なのだと思うと、少しだけ胸がすっとした。 「安藤のこと毛嫌いしてごめん」 「え……」 「夏菜ちゃん狙いなのかと思って勝手に勘違いして」  罪悪感を拭うために何も知らない安藤に謝った。面と向かって素直になるのは難しいから夢の中で。  突然わけのわからないことを話し始めた槊葉に安藤はきょとんとしている。 「その制服桐南高だろ。同じクラスにいない? 水上夏菜」 「水上さん? ……いる」 「その人、俺の好きな人。小さい頃からずっと好きだったのに……さっき婚約者紹介された」  相手の男の顔を思い出すと涙があふれてくる。ズズッと鼻をすすれば不器用な少年に学ランの袖で涙を拭われた。 「……安藤、おまえ童貞だろ」  慰められるのが恥ずかしくなって軽口をたたくと、彼は気にする素振りもなくうなづいた。あんまり淡々としているのでさりげなく疑問を口にする。 「夏菜ちゃんのことタイプなんじゃねえの」 「……わからない」  いつもの安藤からは考えられないほど硬派な言葉に耳を疑った。 夏菜に興味がなく、その上童貞とくれば好感度はうなぎ登りだ。 もっとも夏菜に惚れていようが惚れていまいが、もう関係のないことだけれど。 「はあ……勝手に意識して威嚇してバカみたい。夏菜ちゃんから見たら俺なんかクソガキなんだろうな」  人目もはばからず大粒の涙を流す男を気の毒に思ったのか、安藤が背中にそっと手を伸ばし、あやすようにポンポンと叩いた。 「……俺は素直でいいなって思う。水上さんもきっとクソガキなんて思ってない」  静かな声でそう言われるとかえって説得力が増す。彼の言葉がストンと胸に落ちて、槊葉は不思議な気持ちになった。  現実逃避の末に逃げ込んだ夢の中、わざわざ安藤なんか登場させなくても……と不満に思っていたが、濁ったフィルターを取り払えば何もかもが違って見える。 「なあ見て。俺の夏菜ちゃんコレクション」  今度は自分の服の袖で涙を拭って、槊葉はスマホの電源をつけた。  夏菜と会うたびに撮影した動画を自分で編集したデータがたくさんある。便利なアプリに頼らず地道に仕上げたそれらは槊葉の宝物であり、唯一の趣味だ。
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