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タイムスリップ!? 04
ずらりと並んだサムネイルの中からお気に入りの一本を選ぶ。ナウ狐につままれ中の安藤が呆然としている様が面白い。
動画はたくさんのビー玉がバラバラと散らばるところから始まった。ラムネ色の球体がドアを叩き、カフェの呼び鈴と夏菜の声が重なった瞬間、BGMが流れだす。
「あ、SAKURAドロップス」
今が2002年なら、槊葉にとっては懐メロでも安藤にとっては新譜だ。
(あれ、なんか今見ると……)
夏菜を輝かせるために作ったはずの映像には、誰かさんのビー玉作品があふれていた。
「あー……まじか。無意識だった。なんか悔しい」
「なにが?」
突然うなり始めた槊葉に安藤が尋ねる。
もう張り合う理由は見当たらない。
「認めたくないけど、安藤が作ったビー玉のインテリア、好きだ」
「え……」
なぜ、という顔で安藤がフリーズする。複雑に揺れる瞳には気付かないまま続けた。
「そのビー玉もなんか作る材料なんだろ。こんな年からやってたなんてすげえな」
彼に捕まえられたビー玉たちを指さしながら言うと、「つまんなくないか」と頼りない声が返ってくる。
「美術コンテスト……ビー玉で出品しようと思ったら反対されたんだ。地味すぎるから題材も工夫しろって」
悔しげにうつむく少年を見て、槊葉は瞬きを繰り返す。こんなに自信のなさげな安藤ははじめて見た。励ますことなく珍しい状況をしばし堪能してから勢いよく立ち上がった。
「そっか。高校生ならまだアートの腕もヘボなんだな! よし、せっかくだから安藤の恥ずかしい過去を撮ろう!」
突然ひらめいた妙案ににんまりと人の悪い笑みを浮かべる。
絶望の底に突き落とされ、夢とはいえ十七年分もの時間を大きく移動してきたのだから、これはもう立派な旅行だ。失恋の傷を癒やすために安藤を利用したって罰は当たらないだろう。
「おい大輔、おまえのヘボ作品……えーっと、ビー玉で作った作品ない?」
気が大きくなった槊葉は、どうせ夢の中だからと安藤を呼び捨てにする。それを咎めることなく彼はわたわたと制服のポケットを探った
「……えっと、これなら」
差し出されたのはワイヤーを使って人の形を模したビー玉のキーホルダーだ。予想より随分きれいな仕上がりだが、少しばかりワイヤーの処理が甘いのが素人目にもわかる。
「なあ、これ顔描いていい?」
えっ、と目を見開いた安藤は、けれど快諾して、ねだられるまま油性マジックを槊葉に手渡した。シンプルに目と口だけを描き足し、金具を外して撮影準備は整った。
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