タイムスリップ!? 05

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タイムスリップ!? 05

「俺さ、今まで夏菜ちゃんしか撮ったことないんだ。けどもう終わりにする。夏菜ちゃんのいない世界をフレームに収めて、ちゃんと前に進もうと思う」  諦め混じりに笑ってビー玉人間を安藤の眼前に突き出し、槊葉はヘリウムボイスで続ける。 「オレ様の失恋旅行ロケに同行させてやるぜ。そんでオマエも前に進め」  泣いたり笑ったり忙しない相手に安藤は圧倒されっぱなしだったが、指人形のようにしてビー玉に声を当てている高校男子が滑稽に見えたのか、突然ふっと笑みをこぼした。 「しょうがないな。付き合ってあげてもいいよ」  人差し指でビー玉の顔をつついた後、下からのぞき込むようにしてイタズラに笑ってみせた安藤に思わずドキリとする。あのキザったらしい大人の安藤と同じ顔をしていた。  バシン。 「いたっ」  なんとなくムカついて頭を引っぱたくと、理不尽な仕打ちに安藤が睥睨する。「ごめんつい」と言い訳をしつつ撮影プランに話題を切り替えた。 「大輔はビー玉くんを持つ係な。この街を旅してる設定でオレがカメラを回す」 「さっきの映像って全部君が作ったのか」 「そう。スマホで撮っただけだけど」 「本当に? あんなの自分で作れるの?」  別に動画の一つや二つ作れたからって珍しくもないだろうに、安藤はアーモンド型の瞳をビー玉みたいにまん丸にして驚いている。 「別に今どき珍しくもな……」 「すごい! ちょっとしたストーリーみたいになってたし、効果音や文字の入れ方も凝ってて。それに色がすごく鮮やかで印象的だった!」  ちょっと前まで曇っていた安藤の表情が突然きらきらと輝き、大真面目に賛辞を贈ってくるせいで呆気にとられた。 学生時代の安藤は陰気だったんだなんて密かにほくそ笑んでいたのに、そんな自分が恥ずかしくなってくる。 「あ、ありがとな。じゃあハイ! こいつパス」  どうにも照れくさくなってビー玉くんを押しつけると、安藤は槊葉の指ごとそれを握った。 「動画できたら俺にも見せて」 「へ? あ、わ、わかった」 「楽しみ」  きゅ、と軽く力を込めた後、被写体を受け取った安藤の指が離れていく。 (な、なななんなんだよ! 甘い! チャラい!)  安藤はやっぱり安藤だ。どこも変わってなんかいない。  熱くなる頬を無視して槊葉は撮影を開始した。  動画はビー玉くんがドロップ缶の中から出てくるところから始まる。 小さな世界を抜け出して新しい世界に飛び込んだ彼は、知らない場所や人の中で新しい自分を見つけていく、というのが大まかなストーリーだ。
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