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灯火
彼は言った。
「きっと世界は楽しい音楽とともに
楽しい未来が満ち溢れている」と。
誰からも慕われていた彼の頭の中は
いつも無限の可能性を見据えていた。
彼には境界線などなく、果てしない景色が
その瞳にひろがっていた。
彼と同じ夢を見て、彼と同じ夢を追う時間は
かけがえのない時間だった。
けれど、その日は突然にやってきた。
夕日が見えるその綺麗な時間を悲しみの色に
変えてしまう一報が入った。
信じがたい事実に、目を背けた。
彼が欲しかったものは、
きっとお金でも名誉でもなく
「未来」だった。
たった一瞬で奪われてしまうこの未来を
私たちは大切に生きているだろうか。
彼の分まで、生きられているだろうか。
彼が見たかった「未来」を
生きている私たちに
今できることはなんだろうと、
できもしない頭で考えながら
今日も悲しみの色を見る。
あまりにも鮮明すぎる
色褪せることを知らない
彼の遺した笑顔と灯火は
この心から消えることはない。
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