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昼頃になって、何人かの従者を引き連れた、女主人がやってきた。従者は女主人のための日傘を畳んで、家の外で待った。
「聞いたぞ、アンナよ。飛んだそうではないか」
「まあ、はい」
アンナはぼんやりとした返事をした。それ以上にやりようがなかった。丁度彼は、誰か来客が来ないものかと退屈していたところだった。
「ところで、エンキはどうした。いつもここらで働いているだろう」
「じいさん、……エンキなら死んだよ」
女主人は呆然とした。あまりにもあっけない。それ以上に、アンナの言い方はあっさりしている。自分の親代わりが帰らぬ人になったというのに、その言い草は、あまりにも冷たいのではないか。
「……ほほう、それで待っていたわけだ」
「何を?」
「なんとかしてくれるものを、だ。おまえ一人では葬儀の仕方などわからんだろう。その悲しみのやり場も、これからどう生活していけばよいかも、すべてわからんのだろう」
アンナは首をひねった。確かにわからない。これからの生活はなんとか、いつかのたれ死ぬまではやっていけるだろうと思った。ちゃんとした葬儀などアンナはやったことがないからわからない。悲しみというのも、よくわからない。
「まあ、そうです」
「……おまえというやつは」
女主人は言葉を噛み潰し、ぼんやり椅子に座っているアンナを抱きしめた。アンナにはどうして彼女が嗚咽を噛み殺しているのかわからなかった。しかしどうして泣いているのか、と聞くこともしなかった。どうにも野暮だと思ったのか、理由がすでに分かっていたのか。それは当時の彼に聞いてもわからない。今の彼に聞いても分からないだろう。
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