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「じいさん」
エンキ翁は帝都にて、一人の少年と暮らしていた。逃げ延びる際に拾った子供だ。今現在、エアの技術を発揮できる、ただ一人の少年だ。
「飯もらってきた」
「礼は言ったか」
「うん」
「ならいい。そこに置いとけ」
彼らは帝都の隅っこで、技術を細々と伝えながら生きながらえていた。表向きは傘張職人として、エアの技術を応用して慎ましい生活を送っていた。
「傘の注文も」
「ああ。また貴族さんからか」
「うん。エアの技術も見せてほしいって」
「そりゃあ出来ない相談だな」
「だろう、だからそう言っといた」
少年はエンキ翁に紙を渡した。
「なんて書いてあるの」
エンキ翁は読んでいるところを指でなぞりながら、少年に話した。
「傘十本、赤無地三本、青無地三本、赤柄付き四本。だそうだ」
「ふーん」
何度見てもわからない、と少年は思った。文字が読めれば便利なことも多かろうが、今までは読めずとも不便であったことはない。ただ、翁と同じものを見られないのは、寂しいと思った。
「そこの作り置いたやつに、赤無地のやつが三本、青無地のやつが二本ある。アンナ、残りはいくつ作ればいい」
「青無地を一本と、赤の柄ありが四本」
「正解だ。早速仕事に取り掛かるぞ」
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