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なんて簡易的なんだろう、この恋は。
人は、手っ取り早い手軽さを好む。
だからコンビニは忙しいんだ。と、バイトの俺は思う。そのバイト中。
なんて簡易的なんだろう。
前から気になってたお客さんの事をずっと、考えてる。これは恋だな。そうだそれだ、それしかない。いやもう最早それであって欲しい。
なんて、
男なのに男のサラリーマンに恋するなんて、人は、よっぽど安易だな。いや俺だけか。
夕方から入る俺のお客さんは大体、仕事帰りの人。毎日弁当を買いに来る人もざらで、俺のその人もその部類。
まず外でタバコを吸う。
喫煙所なんてないから初めは注意してたけど、それから見えない死角で吸うようになって。まぁ…マイ灰皿持参だし、周りに迷惑かけてないようなので…店側としては、見て見ぬ振り。
吸い終わったら店内に。カゴ取って、本棚の方からぐるりと一周。
ブラックの缶コーヒーと(多分朝用)、発泡酒のビールと。
途中イカやら乾き物をピックアップしながら、
弁当。そしてレジへ。
「いらっしゃいませ」
「はい、いらっしゃいました…よっと」
レジ横の新発売の甘い物をカゴに入れ、
「偉いだろ、皆勤賞だ」
俺に笑いかけてくる。
「…いつからスタートですか、それは」
今日も話しかけてくれた!…っていう喜びをひた隠しに俺はいつも、適当そうに、答えてあげる。
「うーん…お前と目が合った時、から?」
何それかっこいい!この人が俺を意識して生活してくれてるんだと思うと、地べたに沈んで床をバンバンしたくなる程の歓喜!…けれど、
「な…何にも貰えませんよ、そんな事しても」
あぁ何で俺は〝嬉しいです〟の一言が言えないんだ!…言って、いいのか?これは。いいのか?なら言うぞ?店員とお客の垣根を越えて、
言ってしまうぞ?ねぇ!
「何だ…貰えないのか」
バーコードをピッてする手を止める。
「……何が…欲しいんですか…?」
「……」
目が合うと、ふっと笑って、
「くれるなら、何でも」
何でもって何!何でもって……〝何もかも〟?
うわーーーーっ!!て一番くじの箱の丸い穴に叫んじゃいたい!そんな事したってモロバレだけど!
この人の前ではいつでもハイテンションな俺……心の中だけ、だけど。
「なっ…何がおかしいんですかっ」
その人が正に腹を抱えて笑ったので。
「いや…お前…分かりやすいな」
「え…」
「なんか、紙とペン貸せ」
「?」
「早くっ」
「は、はい…」
何だか知らないけど、俺は慌てて〝ご不要なレシートはこちらへBOX〟から一枚取って、店のボールペンと合わせて渡す。彼は何かをサラサラと書き始めた。
「これ」
それを俺に渡してくる。
「これ…」
「俺の住所と、連絡先」
「!なっ」
何で??
「…欲しいんだろ?」
「!!」
途端きっと俺は全身真っ赤になってただろう、風疹の時みたいに。って気持ち悪いなそれは。
じゃなくてーー
「ななっなんでっ!」
バレてる?バレてんの??これぇ!?
いつまでもそれを受け取らない俺を待たずに、台に置く。
「ご褒美くれよ?」
札を置いて去っていくその人に…後ろ姿に……
何なのあの人!何なの!
いっつも俺を振り回して!掻き乱して!
そんなんするから気になっちゃうんでしょ?!好きに……
あぁやっぱ……好きだ……
レジをして、あの人の釣り銭を握り締めて、
「あ……」
もしかして俺、はめられた?
このお釣り、届けに行かないと。
今、貰ったばかりの住所に。
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