【モニタリング】こちら、しろねこ心療所

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【モニタリング】こちら、しろねこ心療所

「本当にすみませんねえ」 「いえ。私から言い出したことですから」  痴漢事件から一週間後、私はしろねこ心療所』に来ていた。電車で二時間、山道を登ること40分。そんな僻地にある心療所に来たのは2人に御恩返しをするためだ。  白夜様に盛大に成敗されたあの痴漢さんは、その後まったく見かけなくなった。それにイメチェンしたことで自分に自信が持てて、はっきりと思っていることを伝えられるようになった。するとどうだろう。友達が増えた。通学もひとりきりじゃなくなったから、安心して電車に乗れるようにもなった。おかげで毎日が楽しい。どうしてもっと早くコンタクトにしたり、ふわふわの髪型にしたりしなかったのだろう……と今はちょっとだけ後悔している。  だけどそういう変化だって、二人に会わなければ。ううん、白夜様に言われたなければ気づかなかった。私にとって白夜様は本当に大恩人であることは間違いない。 「白夜さんが窓ふきが終わったら、床掃除だと。本当にあの方は人使いが荒いですねえ」  久能さんがふぅっと大きく息を吐いた。縁側で日光浴をしながら、のんびりくつろいでいる白夜様がピタンッと床板を打つ。目をつむっていたから、てっきり眠っているのかと思ったのに、しっかり起きていたらしい。 「いいんです。それくらいしか、私にはできませんから」 「まあ、でも……男所帯にかわいい女性が来てくれるのはうれしいことですよ。ああ見えて、白夜さんもとても喜んでおられますから」  私の耳元でコソコソと久能さんはささやいた。私たち二人のやりとりが気に入らない白夜様が目を開ける。その目が三角形に変化していく。超不機嫌な顔になっている。 「じゃあ。毎週末、お掃除に来ますね!」 「だそうですよ、白夜さん?」  白夜様が起き上がった。一度ぐんっと伸びをした後、彼は前足を行儀よく揃え、縁側に座り直した。エジプト座りだそうだ。私たち二人のことを警戒しているのだと、隣でこそっと久能さんが教えてくれた。  白夜様が「ウニャア」と小さく鳴く。  まるで「いいかげんにしろよ、愚民ども」とでも言いたげに――  かくして、私は『しろねこ心療所』の掃除係となって、毎週末御奉公しに来ることになった。 「あのう……」  今日も迷える女性がひとり、相談にやってきた。 「こちら、しろねこ心療所です。中へどうぞ」  玄関を開けると、ピタンと奥の部屋から音が響く。白夜様が尻尾で机を叩く音が――
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