【アセスメント】リップはつやつや、ぷるぷるで

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【アセスメント】リップはつやつや、ぷるぷるで

「なるほど。そんなに長い間、ひとりで耐えられていたんですね」  私の話を聞き終えた久能さんが音も立てずに静かにカップをソーサーに戻した。彼が机の上の猫を見る。じっとして聞き入るように目をつむっていた猫は、彼の視線に気づいたように、おもむろにまぶたを上げた。 「白夜さん。いかがしますか?」  久能さんは猫に向かって尋ねた。冗談で訊いた様子はない。彼の問いかけに白夜と呼ばれた猫は耳をプルッと動かした。「ウナア」と短く鳴く。 「そうですか」  うんうんと頷いた久能さんが私に向かってニッコリと微笑を浮かべた。   「愛華さん」 「あっ……はいっ!」  背筋を伸ばし、しゃんとする。久能さんのほうに体を向けようとするとすぐに制止される。 「主人は白夜さんなので、彼の顔を見ていてください。彼の言うことを伝えますから」 「は……はい」  ここではそれがルールらしい。大人しく久能さんの言うとおりにする。猫の顔を見る。猫も私を見上げた。  久能さんがコホンとひとつ咳払いする。 「ええでは……門奈愛華。おまえの悩みは解決してやる。ただし、条件がある。って……条件ですか?」  久能さんが目を丸くして猫を見る。猫はツンっと鼻先を上向きにしたまま、しっぽでピタンッと机を叩いた。 「わかりました。えっと……愛華は今後、メガネをやめてコンタクトにすること」 「メガネをやめてコンタクトですね。それなら……前に買っておいたものがあるので、すぐにできると思います」 「それから髪もおろして、くるくるふわふわにしてこい」 「くるくるにふわふわ……ですか……」 「俺様はかわいい女が好みだ。以上です」  久能さんを見ると、彼は困ったように眉尻を下げている。本気で猫と会話をしているみたいだ。とても演技をしているようには見えない。  もう一度、猫を見る。相変わらず鼻先をツンっと上向きにさせている彼の目が不機嫌そうに座っている。 「あとですね。できれば、リップはピンクのつやつや、ぷるぷるにしろ……だそうです」  遠慮しながらも念を押すように久能さんが言った。
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