ある暑い日のお話

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ある暑い日のお話

 夏の時期が長いオヴェリア群島連邦共和国の海域は、空気が僅かな湿気を帯び、太陽の光が照り付けて蒸し暑さを擁していた。  マストに広がる帆が作り出す日陰で暑さを(しの)ぐヒロたち一行は、着用しているマントや外套(がいとう)などを脱ぎ、腕や肩までをも露出した普段よりも涼しげな井出達だ。  オヴェリア群島連邦共和国出身で暑さ慣れをしているはずのヒロでさえ、上着を脱いで袖の無い表着だけになっているほどなので、それだけ今日の暑さが厳しいものなのだと見受けられる。  夏も始まりの時期に差し掛かり、暑くなることを予見していた観光委員会の配慮から、“ニライ・カナイ”行きの航行船には“水属性”魔法を操って氷を作り出す(すべ)を持つ料理人が乗り込んでいる。  そして、その日は乗船客たちに冷菓――、俗にいう『アイスクリーム』や『シャーベット』といった珍しい食べ物が振る舞われた。 「あ。アユーシのアイス、結構ラム酒が効いているね」  アユーシから差し出されたスプーンに乗せられるアイスクリームを口に含み、ヒロは感想を述べる。その表情は与えられたアイスクリームの味に驚いたものを窺わせ、それにアユーシは幾度か頷く仕草を見せた。 「でしょ。こんだけ濃いラムレーズンのアイス、おねーさん初めて食べたわ」 「あんまり食べると酔っぱらっちゃいそうだなあ」  ヒロはへらりと屈託なく笑う。そして、自身が手にする器からアイスクリームをスプーンで掬い取り、アユーシに差し出した。 「はい、アユーシ。あーん」  ヒロからスプーンを差し出された途端にアユーシは躊躇(ためら)いなく咥える。口に含んだアイスクリームを舌で転がすように味わい――、と思うと眉間に皺を寄せて微妙だと言いたげな面持ちを浮かした。 「……なんこれ。ヒロちゃん、流石にこれはミスチョイスっしょ」 「カカオ豆のお菓子と香草を組み合わせたアイスだっていうから、気になって選んでみたんだけどさ。美味しいって言えば美味しいけど、何とも表現しにくい味だよね」 「いや。これが美味しいってないわ。妙な味ってか何てかさ」 「ユキの選んだ林檎のシャーベットが一番サッパリしていたねえ」  眉間に深い皺を刻んだ露骨に嫌そうな顔を見せてアユーシが口にすると、ヒロは選抜を間違えたと自嘲するように短く嘆声(たんせい)した。  話頭に出されたユキは、会話に混ざることをせず、黙々とシャーベットを口に運んでいる。
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