ある暑い日のお話

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 暫し遅れて一同の元に戻ったビアンカは、眉間に微かな皺を寄せてヒロとアユーシのやり取りを凝視していた。  いったい何をやっているのか、と。表情で顕著に物語り、怪訝さを醸し出して佇むビアンカに気付くと、ヒロはスプーンを握った手を振るう。 「お帰り、ビアンカ。遅かったね」 「……ええ。どれが良いのか、悩んじゃって」 「あはは。色々な種類があったからね。僕も何にしようか悩んじゃったし」  振る舞いとして準備された冷菓の味は、種類が妙に多かった。各地方の果物を使ったものや、特産品を用いて香料で調整をされたもの、と。実に様々で目移りしてしまうほど。  そうした中、ビアンカは何にするかを選び悩んでいたため、ヒロたちよりも遅れてしまった。  ヒロに誘われ、ビアンカは日陰に足を踏み入れる。日向(ひなた)よりも僅かに冷えて感じる潮風を受けて安堵を窺わせ、さっそく器に盛られる冷菓をスプーンで掬って口に運ぶ。  口に入れた途端に感じる、ひんやりと冷たい食感。酸味の中に仄かに混じった甘さにビアンカは頬を綻ばせてしまう。さような彼女の表情の変化に、それを見守っていたヒロまでも微笑ましげに頬を緩めていた。 「ビアンカ、美味しそうに食べるねえ。何味にしたの?」  自身もアイスクリームを口にしながらヒロは問う。紺碧色の視線はビアンカの手元の器に移され、彼女の食べている冷菓に興味津々だった。 「サッパリしたのが良いって言ったら、柚子っていう柑橘系のシャーベットを勧められたわ。酸っぱくて甘くて美味しい」 「あー。群島の果物だね。紅蜜柑(オレンジ)の仲間で、お菓子だけじゃなくて他の料理とかでも香り付けや臭い消しに使うんだよ」 「へえ、そうなのね。紅蜜柑(オレンジ)よりも香りが爽やかだし、酸味も強い感じよね。甘いんだけど甘すぎなくて、食べやすいわ」  ビアンカが関心を口にするとヒロは頷き――、にこやかな笑みを見せた。
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