どうしますか?

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注文したカシスオレンジが運ばれてきた時、幹事の営業に『水無月さん!』と呼ばれた。 どうやらいよいよ送別者の挨拶が始まるようだ。私は一口だけお酒を飲んで立ち上がった。 「ではこの春で異動や退職になる皆さんから一言ずつ挨拶をいただきたいと思います。まずは遠野課長と小早川と平井という一課の面倒な営業トップ3を陰で支えていたサービススタッフの水無月さんです。あ、まだ水無月さんでいいんでしたっけ?」 幹事の営業がそんな質問をしてきた。店内に笑いが起こったので私は顔をしかめ、幹事の方を振り返った。 「水無月ですけど?」 「失礼しました~じゃあ一言どうぞ」 ヘラヘラと笑う営業に促され私は一歩前に進み出る。 同じ営業一課に属していたけど一緒に仕事ができなかった人も大勢いた。 助けてくれた人もたくさんいるし、迷惑を掛けてしまった人もたくさんいる。 ただ一つ言える事はここにいるみんなが私は大好きで、ここにいる全員の未来が明るいものになる事を祈っていた。 「えっと、この会社に入社して5年、営業一課に配属されて1年なんですが、今回この会社を去る事になりました。急に決めてしまったので、私が担当していた営業さんや他のスタッフには迷惑を掛けてしまったと思います。それでも皆さんがフォローをしてくださって、『あとは任せて』と言ってくれたのでその言葉を信じています。春からは東京を離れる事になりますが、営業一課で一緒にお仕事ができた事は忘れません。ありがとうございました」 短い挨拶を終え深々とお辞儀をすると拍手が起こった。それだけの事なのに泣きそうになる。 もっとここにいたかった。 営業一課のメンバーや遠野課長とこの部署で一緒に仕事がしたかった。 迷惑を掛けた分の恩返しぐらいはしたかった。 それが叶わない事が悔しかった。 「水無月ちゃん」 顔を上げると早乙女チーフが立っていた。そしてカラフルな花束が差し出される。 「今までお疲れ様でした」 「ありがとうございます……」 「元気でね。もし泣かされるような事があったらいつでも連絡して。そっちまで飛んでいくから」 早乙女チーフの言葉への返事は笑って誤魔化した。 勘のいい人達は私が遠野課長について行く事にとっくに気付いているのにそれを濁し続けるのも段々馬鹿らしく思えてきた。 でもここまでうやむやにして来たんだから、最後までとぼけ続けたっていいだろう。 私は早乙女チーフのコメントに対してはっきりとした返事はしなかった。
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