どうしますか?

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書き終えたばかりの手紙に誤字脱字がないか読み直す。 近状報告のつもりが、この2年間の回顧と母への感謝の手紙になってしまった。 ……まぁいいか。 私に大切な事を教えてくれた母へは感謝してもし足りないくらいだった。 便箋を折りたたんでいると部屋のドアがノックされる音が響いた。 私は慌てて手紙を片付け、ドアに向かって『どうぞ』と声を掛ける。 「莉音」 開いたドアの向こうから現れたのはスーツ姿の保さんだった。 驚いた私は壁に掛けてある時計を見上げ、再び彼の顔を見る。 「ちょっと、何してるの?仕事中でしょ?ちゃんと働いてよ!」 「すぐ近くで打ち合わせがあったんだよ。それについさっきずっと苦戦していた契約がやっと取れたんだ。ちょっとぐらいご褒美があったっていいだろ?」 「私がご褒美って事?」 「相変わらず君は自分を買い被りすぎ」 保さんは微笑みながら私のベッドに近付いてきた。 そして私ではなく隣の小さなベッドを覗き込んでいた。 「広佳(ひろか)、会いに来たよ。パパだよ~」 「……ご褒美は広佳の方か」 「拗ねんなって。病院に寄った理由の3割が莉音で、広佳は7割だから」 「待って、この前まで私と広佳で五分五分だったよね?いつの間にそんな比率になってたの?」 私がそう声を上げると、保さんに『娘相手に大人げないな』と笑われた。 当たり前でしょ。広佳が生まれてから保さんはそっちにデレデレなんだもん。嫉妬くらいするよ。 思う存分産まれたばかりの愛娘を堪能した後、保さんは近くの椅子を引き寄せそこに座った。 「そういえば、今朝お義母さんが来てくれたよ」 「知ってる。俺が出勤する前に『莉音ちゃんと広佳ちゃんの所に行ってくる』って張り切ってたから。莉音が退院して色々落ち着いたら東京に戻るって」 初めての出産に戸惑っている私達の為に東京から保さんの母親が手助けに来てくれていた。 本当は私の母が来てくれる予定だったが、足の怪我のせいで自宅療養を余儀なくされた。 私が母の怪我の事を話すと保さんは『じゃあうちの親に相談してみるよ』とすぐに連絡をしてくれた。 義母は夫である副社長の事を『なんとかするでしょ』と放り出し、毎日孫に会えると上機嫌で福岡に来てくれていた。 「お義母さんにはすっかりお世話になっちゃったね。また落ち着いたらお礼しなきゃ」 「家族なんだからこうやって支え合うのは当たり前だって母さんも言ってたぞ。まぁ莉音のそういう心掛けは好きだけどさ」 保さんは『莉音は変わらないね』と微笑みながらポケットで振動するスマートフォンを取り出した。メールを確認した彼は慌ててバッグからタブレットを引っ張り出した。 どんな時も仕事が頭から離れない保さんも相変わらずだなと私は笑いそうになった。
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