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休み明けの月曜日。私は野々山課長に個人的に呼び出された。
いつもミーティングに使っている広い会議室で、私は深刻そうな顔の野々山課長と向かい合って座った。
「私……なにかミスしました?」
「え?」
私が恐る恐るそう切り出すと野々山課長は驚いた顔をしていた。
いつも穏やかで笑顔を絶やさない課長が難しい顔をしているとこちらも不安になってしまう。課長は慌てて『違うよ』と首を横に振っていた。
「いや、ミスとかじゃないんだよ。水無月さんはいつも完璧だよ。すごく頑張ってくれている」
「じゃあお話っていうのは……」
野々山課長は手帳に挟んであった封筒を取り出し、私に差し出した。
この封筒を私は見た事がある。営業が異動の辞令をもらう時に使われるものだ。
私は小刻みに震える手で封を切り、中に入っていた書類の内容を確かめた。そして視線を書類から野々山課長に移した。
「急な話で申し訳ない。大変な部署になるけど、きっと水無月さんの為になると思うから、頑張って欲しい」
「でも……私が?他にも相応しい人はいたんじゃないんですか?」
私は書類を手に持ったまま、不安げに野々山課長を見つめた。課長は『決まってしまった事は仕方ないよ』と残念そうに呟いた。
もう一度手元の書類に視線を戻す。
何度読み返しても、そこに書いてある事実は同じだ。
辞令が出た。
3月いっぱいで私は慣れ親しんだ営業部二課を離れる事になった。
そして4月からは──遠野課長や小早川くんの在籍する営業部一課で、サービススタッフとして働く事が決まった。
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