1.事の始まり

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1.事の始まり

自宅の最寄り駅前の本屋で、俺の抵抗もむなしく、俺の体は俺の意思に反してレジへ向かっている。手には本が三冊。 「マジで勘弁してください!このペースで行ったら睡眠不足で倒れます!」 「分かった。今日は一冊減らそう。」 片手が動いて本棚に一冊戻される。 「二冊でも多いですって!俺明日も仕事なんですよ!」 「これくらい深夜一時には読み終わるよ。バブルの頃は皆、バリバリ働いて夜遊びも全力で、がスタンダードだったんだぞ。君はまだ若いんだから大丈夫だって。」 「昭和の価値観押し付けないでください。時代は平成が終わろうかというところですよ。ふた回りも遅れてます。」 そうこうしているうちにレジで会計が済んでしまった。 「最悪だ……。」 レジ袋に入った本を見て愕然とする。 ふと全身を押さえつけられているような圧迫感から解放されて、体に自由が戻ってきた。 「よし、じゃあ早く帰って本を読もう。」 頭の内側から響く嬉しそうな声。俺ではない。さっきまで俺の体を好き勝手動かして、俺の財布から惜しげも無くお金を取り出したコイツーー俺に取り憑いた幽霊だ。 もう何も言う気力がない。俺はトボトボと家に向かって歩き出した。
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