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アパートを出ると小雨が降っていた。スマホには、幹事から二次会の店についての連絡が来ていたが、橋野さんを送り届けて疲れたからそのまま帰ると返信した。お酒を飲んで浮かれる気分ではなくなっていた。
橋野さんの言葉を反芻する。母の再婚話を聞いてから自分の中で燻っていた感情の正体はこれだったーー『寂しい』。気づいてしまえばもうダメだ。胸が締め付けられるかのように苦しい。
今までずっと二人で支え合ってきた。母にとっての一番は俺だったし、俺にとっての一番は母だった。実家を出てからもそうだった。そうだと思っていた。
情けない。気持ち悪い。この歳になってこんなに母が恋しいなんて。
「傘、差さないのか。風邪を引くぞ。」
「忘れました。」
本当は鞄の中に折り畳み傘が入っている。しかし、後藤さんはそれを知っていてなお、そうかとしか言わなかった。
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