3.心のままに

18/19
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
「後藤さん、前に奥さんと子供がいるって言ってましたよね。」 「ああ。」 「こんなこと聞くのは失礼かもしれませんが、もしも奥さんが再婚することになったらどうします?」 「どうするって言われてもなあ。君の体を借りて、恋路の邪魔でもしてみるか。」 後藤さんは揶揄(からか)うように言った。 「それは困ります!そうじゃなくて、どんな気持ちになるのかなと。」 「君も妙なことを聞きたがるね。そうだなあ。オジさんも人間だから、やっぱり少しは寂しいと思うだろうな。でもそれ以上に、彼女には幸せになってほしいから受け入れるよ。……心から祝福はできないが。」 「後藤さんでも嫉妬するんですね。」 「そりゃ、そうだよ。ああ、想像したら何だか切なくなってきた。」 「慰めてあげましょうか?」 「ほっといてくれ。」 いつも余裕たっぷりの後藤さんが、今回ばかりはすっかり(しお)れてしまっている。しばらくそっとしておいてあげよう。そうして、ひとしきり落ち込んだ後には、彼が元気になれる場所ーー本屋へ行ってみるのもいいかもしれない。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!